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僕が夢を見るまでの経緯

今回は世界観と、公文の家庭環境にまつわるお話です。

一見、ホームドラマのようですが、ディープな設定が……。

 人間五十年、下天のうちをくらぶれば、夢幻の如くなり。一度生を享け滅せぬもののあるべきか(幸若舞『敦盛』)




 僕がその夢を見たのは、夏休みに入って間もなく、魔法格闘戦の大会で惨敗した後だった。


 帰ってからの、親子水入らずの反省会で、僕は試合の時と同じくらいに逃げ場のない思いを味わったのだ。


 試合の一部始終を見ていた父は不機嫌だった。


「何であそこで負けるかなあ……」


 魔法格闘戦は、中世での実戦を模して、刃のない武器(形状は剣や槍、長柄の斧など)、軽量の胸甲、腕の小さなバックラーを装着して行われる。


 接近しなくても、遠距離から防具に関係なく効果を発揮する衝撃呪文や転倒呪文などで攻撃することもできる。


 ルールは単純だ。


 ノックアウトされたら負け。


 攻撃を浴びた回数や転倒が相手より多ければ負けだ。


「僕は、それほど身体も大きくないし」


 努めて言葉を選んで弁解したが、父には通用しなかった。


「言い訳すんな!」


 試合で食らった衝撃呪文と同じくらいのダメージが来た。


 身体のハンデは魔法でどうにでもなるため、普通の人たちがやる柔道やレスリングみたいな重量制や階級制はない。


 だから、その手の魔法でやられたらひとたまりもないのだ。


「確かに、それほど身軽でもないから、僕は……」


 それなりの戦術が、ないわけでもない。


 まず、吹き飛ばされたり転倒呪文(スネア)をくらったりしたら、立ち上がるまでにぶちのめされる恐れがある。


 その辺は、父も分かっていた。


「だから、相手が仕掛ける前に動くしかない」


 そのときに有効なのが、疾走呪文(ヘイスト)だ。反射や運動の速度を、通常の数倍に高めてくれる。


 この試合でも、効果は絶大だったという自信があった。


「一瞬で接近して格闘戦に持ち込めば……」


 それは、負け惜しみにすぎなかった。


「それが通用したのは中学までだったな」


 父に一蹴されて、僕は黙り込んだ。


 高校入学前に挑戦した世界魔法格闘戦少年の部では、見事にやられたのだ。


 返す言葉のない僕に、父の説教は続く。


「相手が余裕で疾走呪文を唱えれば、お前のスピードは相殺される」


 それまでは勝てたから、相手も同じ手で来るとは思っていなかった。


「疾走呪文は思考速度まで上げてくれんぞ」


 だから、近接戦闘の手数で相手に圧倒されてしまった。


 その様子は、三段階で簡潔にまとめられた。


「気力が尽きたところで魔法が解け、別の呪文を唱える前に衝撃呪文で瞬殺され、個人戦予選で惨敗」


 かつての負けをほじくり返され、僕の気持ちはどこまでも凹んでいった。




 そこで、助け舟を出したのは母だった。


「去年、1年生のときは全日本高等学校魔法戦選手権大会個人格闘の部まで出られたじゃない」


 疾走呪文で先制攻撃をかけるのには、懲りていた。同じレベルの相手が同じ戦法を使ったら、効果は差し引きゼロになる。


「だから僕は、武器を強化する戦法に切り替えたんだよ」


 勢い込んで説明すると、今度は母さんがダメ出ししてきた。


「高校のレベルは甘くなかったでしょ?」


 相手が魔法で防具を強化したためになかなか倒せず、試合途中でお互いの呪文の効果が尽きてしまったのである。


「体力勝負じゃ、ちょっと……」


 呪文が使えなければ、力と技の勝負になる。だが、母は言い訳する僕を穏やかにたしなめた。


「魔法をいくつもいっぺんに使うから」


 呪文を唱え、その効果を維持するには、それなりの体力と集中力を要する。それが尽きれば、衝撃呪文や転倒呪文はおろか、自分の防具強化もままならない。


 再び口を閉ざした僕に、再び父が追い討ちをかけてきた。


「結局、力押しで負けてしまったな」




 ちょっとでも失地回復をしておかないと、心が折れそうだった。


「でも、団体戦闘の部に出場したときは……」


 この競技は、個人戦のような武装戦闘を、フォーメーションを組んで行うものだ。


 一定回数倒されたりノックアウトを宣告されたりした者が退場し、制限時間内に生き残った者が多いほうが勝つ。


 同数であれば、倒されたり打たれたりした数が少ない方の勝ちだ。


「確かに、お前向きのポジションだったかもしれんな」


 父が言うのは、僕が担当した「防護陣(プロテクション)」のことだ。


 孤立したり、武器を失ったりした味方をコートの端で動かずに守るのが僕の役割だった。 


 正直、ここが活躍の場だと思っていた。


「結構、いいセン行ってたろ?」


「確かに、試合は有利に進んだな」


 仲間たちは対戦チームの選手をひとり、またひとりとなぎ倒していった。


 だが、相手も手強い。


 制限時間ぎりぎりになって、味方の多くは有効打を奪われ、武器を弾き飛ばされてしまった。


 戦えるのは、残った相手チームと同数。


「あそこで、僕の出番が来たじゃないか」


 戦えない味方を「防護陣」にかくまって、時間切れを待てばいいのだ。


 当然といえば当然の、守りの戦術だったと思う。


 だが、父の基準からすると、それも不満だったらしい。


「数で劣勢になったら、相手もそれなりに考えるぞ」


 武器を手にしたまま、対魔法呪文(ディスペル)を使ってきたのだ。


 だが、僕にはどうすることもできなかった。


「あの場所しかなかったし」


 たいてい、「防護陣」は味方の邪魔にならないようにコートの隅に張るものだった。父もそれは分かっていたとは思うが、負けた僕は何を言われても仕方がなかった。


「解かれたら逃げ場がないな」


 そんなところに固まっていた僕たちは、魔力を相殺して捨て身の近接戦闘に出た相手に形勢を逆転されてしまった。


「でも、結果は」


 最後の抵抗は、たった一言で粉砕された。


「準優勝っていうのは、決勝で負けたってことだ」




 ここまで父母が勝ちにこだわるのは、僕が全くいいトコなしだったからだ。


「確かに納得してないよ、あの後の個人戦の結果には」


 温厚な母でさえも、溜め息をついたものだ。


「全然歯が立たなかったもんねえ」


 あのときは、家族3人で悔しがったものだ。


 だから、僕はリベンジを図ったのだ。


「年末に出たろ、世界魔法戦青年の部」


 最後の最後に負けたとはいえ、個人でエントリーするには充分な成績だった。


 だが、母は哀しげに切り返した。


「予選で惨敗したけどね」


 確かに、あの大会でも結構、自信をなくしたのだ。そんな状態から立ち直ろうとちょっと河岸を変えてみたりもしたのだった。


「魔法戦だけじゃアレだから、技能コンテストにも挑戦してみたんだよ」


 努力のアピールは、母のツッコミの前ではムダに終わった。


「佳作入選止まり」


 それでも、やるだけのことはやったつもりだった。


「頑張って取ったじゃない、日本魔法協会認定免許1級」


 合格すると、学校では習えない呪文を1つ伝授される。


「使わなかったら意味ないじゃない、護身用の知覚操作系呪文なんて」


 確かに、遠くで物音を立てる程度のことしかできないし、そもそも、現代の魔法使いは基本的にいさかいを起こさない。


「それでも、自信だけはついたよ」


 この夏の負けを少しでも小さく見せようと、僕は必死だった。




 だが、そんな小細工が通用する父ではない。


「2年に上がっても、結局コレだろう」


 再び魔法戦の県予選に出たら、団体戦でチームの足を引っ張ってしまったのだ。


「何とか通過したからいいじゃないか」


「最下位だがな」


 トップだろうがビリだろうが本選出場は本選出場なのだが、ここら辺も父とは価値観が異なるところだった。


 それが分かっていて、ムダな抵抗を試みた。


「遅滞呪文を使ったのは、間違ってなかったろ?」


 相手チームに1人だけ、ゴーレムみたいに集団戦闘競技の意味をなくしてしまうのがいたからである。


 岩山のように大きくて頑丈なのが、長柄の斧を振り回していたのだ。


 こういうのは、動きを止めて袋叩きにするに限る。


 だが、父は冷ややかに答えた。


「効果はなかったな、あまり」


 遅滞呪文をかけても、相手が頑丈すぎてなかなか倒れなかったのだ。


「せめて、有効打を奪おうと思ったんだけど」


「一撃で味方が倒されたら意味がない」


 父の言う通りだった。チーム全体でもそう判断して、僕たちはセコい罠を張った。


 パワーにものを言わせてくるのを利用して、敢えて隙を見せたのだ。


 振るった斧が勢い余って、いちばん小さい僕を派手に吹き飛ばした。それが過剰な攻撃として反則扱いされ、そいつは判定で退場に追い込まれたわけである。


「試合には負けたけど、全国大会出場枠には食い込んだじゃないか」


 その成果は客観的事実だったが、それでも、父は認めようとはしなかった。


「県予選最下位通過。部活始まって以来の不名誉な結果だったな」




 そこで父が持ち出してきたのは、個人格闘の部での不手際だった。


「予選落ちとは情けない」


 自分でも認めざるを得ないくらい、ボコボコにされたのだ。


「あんなの、初めてだったんだよ」


 でかい図体の割に、剣の間合いの外から呪文で攻めるタイプだったのだ。


「対魔法呪文を使えば近接戦闘に持ち込めたろう」


 父の理屈は、実際に戦ってないから言えるセリフだった。あのピンチは、自分の手足で戦った者でなければ分からない。


「疾走呪文なしじゃ、明らかに不利だ」


 各々が呪文を使えばいい団体戦と違って、同時に2つの呪文を使うのは不可能だった。


「退屈この上なかったぞ、見ていて」


「魔法女子プロレスとは違うんだよ」


 さすがにムッときて、冷ややかに悪態をついた。


 互いに魔法で防具を強化し、どちらかの気力と体力が尽きるまで、転倒と衝撃の呪文を使い続けるしかなかったのだ。


 だが、負けは負けだ。


「パワーが足りなかったな」


 結局、この試合は、防具越しに来る衝撃に耐えきれなくなった僕の転倒で終わったのだった。




「何のためにお前を鍛えてきたんだ、俺は!」


 そこで、父の怒りが爆発したのだった。


「別に頼んだわけじゃない」


 ぼそっとつぶやいただけだったけど、それは火に油を注ぐこととなった。


「俺たちはな、日陰の身なんだよ、この国じゃ! 魔法が使えるだけの大道芸人なんだよ、この日本に住まわせてもらってるだけの!」


「いいじゃないか、食う寝るに困らなきゃ」


 頭から怒鳴られて、引っ込みがつかなくなっていた。


 父は更に逆上した。


「お前には誇りというものはないのか! 魔法使いとしての! アトランティスが結界で閉ざされてから世界中に散り散りになった俺たちが頼れるものは、それしかないんだぞ!」


「何だよ、だから、連絡員なんて夢見てたのかよ、そんな意地とか見栄のために」


 売り言葉に買い言葉というヤツだった。


 父の手が風を切った瞬間、さすがにマズいとは思った。試合でいくらヘマをやっても、コレだけはなかったのだ。


 だが、拳は僕の鼻先をかすめただけで終わった。


 そのとき聞こえた母の微かなつぶやきが何だったのか、僕の耳はしっかりと捉えていた。


 空気の密度を変えて光の屈折率を変える「屈光」の呪文だ。


 大掛かりなものになると、空に大きな蜃気楼を描くことさえできる。僕が魔法技能コンテストで使ったのも、これを応用した幻像(イリュージョン)だ。


 水の中に落ちた硬貨が上手く拾えないのと同じ理屈で、初めて振るわれた父の鉄拳は間合いを狂わされたというわけだった。


 さすがにバツが悪かったのか、父は恥ずかしそうに席を外した。


 だが、母もまた、決して僕の味方ではなかった。


「あの一言は、私も許せません」


 叶わなかったとはいえ、自分の生き方を息子に否定された母親の目からこぼれる涙を、僕は正視できなかった。


 さらに、魔法使いであるが故の惨めな思いの数々をくどくどと並べ立てられては、自分が100%悪者だと思わざるを得ない。


 だが、その上でたどりついた結論に、僕の心の中で何かが音を立てて切れた。


「魔法使いとして、真に獅子の心で胸を張ってほしい。それができるのは、アトランティスとの連絡員(エージェント)だけなのよ」


「そんなのが獅子の心なら、いらない」


 わっと泣き出した母を尻目に2階へと駆け上がると、僕はベッドに突っ伏した。


 親の恨みつらみで、生き方を決めてほしくない。


 僕の人生だ。僕が決める。


 そう思いながら仰向けになって、真っ白なクロスの張られた天井を眺めた。


 完全な、フテ寝だった。




 そんなことがあったからだろうか、あんな夢を見たのは。

お隣に住む魔法使いの高校生も、部活や進路、親の理不尽な圧力に悩んだりしているようです。

さあ、次回はフテ寝に逃げた公文くんに、異世界から招く声が聞こえます。

乞うご期待!


1月3日までは午後も更新します。

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