混沌の中心
彼の言葉に咎めるようなニュアンスが隠されている事を察知した。
顔をペタペタ触る。そんなに変な顔だった!?
さっき笑った時、そういえば皆こっちを見てた……?
ルミフィスティアの顔でさえ醜く、凶悪にしてしまうなんて。私の邪悪な部分が知らぬ間に表れたのかもしれない。
「……ごめん。今度から気を付けるよ」
半ば蒼白になりながら言うと、清志朗君はハァ……と溜息をつき苦笑した。
「絶対分かってないと思うけど……。とりあえず座って。何か注文するよ。皆待ってたんだ」
昼食後、部屋に戻ると窓辺に鳥がいた。
……! あの鳥は……!!
以前未来のアークの元へ飛んで来ていた鳥と同じ種類のようだ。ただ、色が全く違う。未来で見た鳥は茶色だったけど、今目の前にいるこの鳥は綺麗な青っぽい……瑠璃色をしていた。
「ナロア。来てたのか」
ジーラが窓を開けるとピョコピョコと部屋に入って来た。小鳥と違い、重量感がある。
「こいつを頼む」
鳥の足に何かを付けている。
ドージェさんの用意した手桶の中身をひとしきり食べると「ギャッ」と一鳴きして、鳥は空へ飛び立った。
鳥を見送って、私は未来のアークの事を思っていた。
……いつ帰れるんだろう。きっとモコたんの望みが叶ったら元の時代に帰れる……そう信じて、今は進むしかない。
「ルイニ鳥を見た事あるのか? 驚かなかったな」
ジーラに話しかけられ、頷く。
そっか。あの鳥はルイニ鳥っていうんだ。
「……未来で一羽、茶色いあの鳥を見たよ。今の子みたいに綺麗な色じゃなかったけど、目が可愛かった。目つきはギョロッとしてたけど、そこがね……」
喋っている途中で思い出す。そうだ。話しても伝わらないんだった……。ちょっと気持ちがしゅんとしていた時、ジーラが笑った。
「そっか……言いたい事は何となく分かった。……結芽の見た鳥も可愛かったんだな?」
「……!」
分かってくれた。心がジーンとする。
「じゃあ、きっとパナウも気に入ると思う。明日の朝ここを発つ時に連れて来る動物なんだ」
無邪気に笑うジーラに釣られて笑うが、ハッと我に返りすぐに顔を逸らした。
私って、笑ったら変な顔だとさっき清志朗君に注意されたばかりではないか。折角のルミフィスティアの麗しい顔が台無しだ。ごめん! ルミフィスティア。……彼女の悪評を広める訳にはいかない。
そう考えて。
あれ? 確か今頃、本当ならルミフィスティアは『うらしま君』で眠っている頃合いなのでは? と思い至る。
そしてもうあの石造りの城には戻れないと清志朗君が言っていた。
??
骸骨になる筈の王様は『うらしま君』で眠らずに旅立ってしまったし……。?……。
もしかして、未来を変えてしまっていない?
ギ……ギ……ギ……ギ……とぎこちなく首をめぐらせて清志朗君を見る。彼は頭の後ろで手を組んで、出入口の横の壁に凭れている。
「あの……清志朗君? 私たち……何か大変な事をしでかしてしまった……のかな? 未来を変えてしまった……的な……」
「何を今更」
清志朗君に鼻で笑われた。
「既に君は色々な問題を背負っているよ。未来の前に今の現状の問題も把握できていない君は、知らないうちに大切なものを失ってしまう可能性だってあるんだ……おっと」
喋り過ぎたと言わんばかりに口元を押さえる彼。
どういう事だろう? 彼は何か……私の知らない事を知っている……?
「僕はちゃんと忠告したからね」
「清志朗君……何の事かさっぱり分からないよ……」
不安に思い言葉を紡ぐと、彼は瞳を伏せて小さく笑った。
「君があまりに無自覚だから気の毒だなって同情心からの、ただのお節介さ。あと、笑顔は薬にも……毒にもなるって話だよ」
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