明け方の夢
「なっ……!?」
ウェードさんの顔が驚愕に歪む。未だベッドに座ったままの緑の髪の青年も驚いたように目を大きくする。
ウェードさんがジーラに詰め寄る。
「何故、西の国の王女を連れて来られたのですか!? 一体……西の国の返事は……」
「ああ。西の国の王は、こちらの条件を呑んだよ。それから……こちらから出した条件に一つ追加されていた事があって。西の至宝を東へ差し出すようにと……」
「まさか……」
ジーラが説明するとウェードさんは私の方を向いた。
「そう。彼女が西の国の至宝だ。王直々に彼女を頼むと頭を下げられた」
「はぁぁ……」
ウェードさんは溜め息をついた後、悔しそうに横目でこっちを見た。
「それならそれで、後日手筈を整えて西の国へ御迎えに参りましたものを。何故こんな時刻に無茶をなさいました!?」
「緊急事態でね」
ジーラは私の隣にボフッと腰掛けて、そのまま上半身を仰向けにベッドに倒れ込む。右手の甲で目元を覆い、眠たそうな彼は言った。
「……色々あって疲れた。明日にしないか?」
……そうだ。彼はずっと私を背負ってここまで来たのだ。疲れてて当然だ。
「……ジーラ……ありがとう……」
言葉の意味が伝わっていない筈なのに、彼の口元が微かに綻んだ。
そのままスースーと寝息が部屋に響く。
「……」
「……」
「……」
「……」
「……」
ウェードさんが顳顬に指を当て、大問題を抱えたと言いたそうに口をへの字にしている。
私もこの状況に戸惑い、他の人の様子を窺う。
緑の髪の青年はオロオロした顔でキョロキョロしている。
清志朗君は片目を瞑って、この状況に呆れてしまっているようだ。
アークはいつも通り無言。
「あっ、あの……っ!」
緑の髪の青年が私に話しかけてきた。
「よかったら……こちらのベッドでお休みになりませんか……? 僕の使ってたベッドで申し訳ないのですが……。昨日は満室みたいだったので、空き部屋はないと思います。僕たちは外にいますので……」
「なっ!? ドージェ、何を言っているのだ!? この者たちがジーラ様に危害を加えるやもしれぬではないかっ!?」
「ウェードは心配性すぎるよ~。お母さんじゃあるまいし」
「なっ!?」
「ほらほら、外に出るよ。……あっ! あなたたちは……」
戸の側にいた清志朗君とアークを見て「彼らの分のベッドどうしよ……」と悩み出すドージェと呼ばれていた青年。清志朗君が「お構いなく。僕たちは大丈夫です」と声を掛けるとドージェさんはペコペコ頭を下げ、渋い顔をしたウェードさんを外へ押しながら出て行った。
静かになった部屋。再びジーラの寝息だけ。
「……そのベッド、清志朗君が使いなよ」
「……遠慮する」
「……ふかふかのベッドじゃないと眠れないんでしょ?」
「……別に」
「じゃあ、アークが使わせてもらう?」
「イイエ」
「……ああもう。人間のくせに」
清志朗君はもどかしそうに頭を掻いた後、ズンズン私の方へ歩いて来た。右手を掴まれ引っ張られる。向かいのベッドの側まで連れてこられ、端に座らされる。
「まだ小娘のくせに遠慮するんじゃない。僕とアークはそこらへんで座ってても休めるから、君がベッドを使うんだ。いいね?」
「……はい」
気迫に仰け反る。外見は年下の彼だけど、私よりも相当年上だったね。変な感じがする。
もそもそとベッドの中に入る。
あ。まだ若干暖かい。ドージェさんが寝ていた温もりだろう。
少しもしないうちに瞼が重くて眠ってしまった。
「さて、アーク。君は僕たちに隠している事があるね?」
眠る直前、何か聞いた気がしたけど……夢かもしれない。
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