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誰?


 その後、崖の階段を上り切った私たちは短い休憩を挟み、夜が明ける少し前に町の宿屋に到着した。距離的にはエイジャの村があった所じゃないかな? と思ったが、よく分からない。

 エイジャの村より大きく、東の都よりも小さそうなその町の宿屋は二階建てだ。結構立派な木造りの建物に「わー」とジーラの背中の上から見上げていると、往来に面した出入口の扉より左手の二階の窓にゆらりと人影が射した。


 バン! と両開きの窓が開け放たれ、男が上半身を乗り出す。


「~~~でんっ……ジーラ様っ!」


「馬鹿っ! 声が大きいっ!」


 ジーラが慌てて声を静めるように注意する。人気ひとけのない通りは、よく声が響く。

 男が姿を引っ込めた。部屋の中の方で


「おい起きろ! ジーラ様がお戻りになったぞ!!」


 という声とバタバタと足音が聞こえ、遠ざかる。すぐにその足音が近付いて来てバン! と宿屋の扉が開かれた。


 私はその人物を目を丸くして観察した。

 サラサラの薄い金髪で前髪の右の一房だけを垂らし、残りは肩下までの髪と一緒に後ろで一つに束ねている。水色の瞳が感極まったように潤んでいる。胸元の少しいた白いシャツと明るい茶色のズボンを身に纏い、革靴を履いている。長身だ。


 その人は宿屋の扉の前にある三段くらいの階段を駆けくだると、横にスライディングする勢いで私たち……ジーラの前に膝を突いた。頭を下げたまま、喜びの滲む声で言う。


「ジーラ様……よくぞご無事で! お帰りをお待ちしておりました! ……それであの……この者たちは……」


「あー、心配かけたなウェード。目立つからとりあえず中でいいか?」


「はっ!」


 歯切れのいい返事をして立ち上がるウェードと呼ばれた男性。


「?」


 ウェードさん? から向けられた視線が痛いと思うのは何故だろう? 私……睨まれた気がする。



 先程ウェードさんが窓を開けた部屋だろう。窓の外にさっきいた道が見える。

 部屋に通された私たち。

 その部屋にはもう一人若い男性がいた。ベッドに腰掛けた彼は寝起きのようで、白いシャツの上ボタンを留めているところだった。灯した燈に照らされた髪はくすんだ濃い緑。太く短い眉毛が印象的な垂れ目の彼は欠伸をしながら言った。


「殿下~無事でよかったです~」


「ばっ……! ここではジーラ様とお呼びしろと言っただろう! 誰かに聞かれでもしたら……!」


 ウェードさんの言葉にピンとくる。そうか。彼らは世に言うお忍び中ってやつですね? なるほど。初めて見た。


「ジーラってそういえば王子様だったんだね。今日まで知らなかったよ……」


 ジーラはずっと背負っていた私を緑の髪の男性が座るベッドとは反対の位置に置いてあるベッドに腰掛けさせた。そして


「……彼女は何て?」


 部屋の戸口前に立つ清志朗君に尋ねる。清志朗君は通訳ももう慣れましたと言いたそうな溜め息をつく。


「ジーラって王子様だったんだね……って」


「ああ。西の国には隠してたからな。……そういや西の国の王に、東の至宝がジーラだってバレてたぞ。折角ドージェのフリして行ったのに。至宝が誰かって、極秘事項だったよな?」


 ジーラがジトーッとした視線をウェードさんに送る。


「そっ、それはっ……! 殿下が悪いんですよっ! あちこちで『秘宝』の『黒炎』をお使いになるので噂が広まっております」


 あ。ウェードさんも『殿下』って言ってるよ……?


 ジーラは苦笑している。


 コホン。ウェードさんが咳払いした。


「それでその……でん……じゃなかったジーラ様。……尊き御身おんみに背負われておられたその図々しい女……コホン。女性は……?」


「西の国の王女、ルミフィスティア姫だ」



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