混沌を察する者
『マップを終了します』
ぐわんっと視界が揺れ、両手を地面に突いて頭を振った。何度か瞬きをする。
視野が落ち着き、周りを確認する。
あっ、ここ元の森の中だ。
「結芽……大丈夫?」
清志朗君に心配そうな顔で尋ねられる。
「うん。……ごめんね。エナジーチャージできなかった」
俯いて謝ると「何だ、そんな事」と小さく笑われた。
「ほっといたら、何れ治るって言っただろう? 別に大した怪我じゃないし、そういうのは大事な時に取って置いてよね」
明るく言ってくれる。
以前ルミフィスティアたちから聞いた話では、彼は人類を滅ぼそうとしている組織のボス的な存在だった筈だが……。
根本は思っていたよりずっとずっと優しいのだろう。
「……それより、『マップ』はどうだった?」
清志朗君に聞かれ、遠くの方を見れたり上空からこの大地を見下ろしたりしていた事を話すと……。
「それはまた……すごい力だね。でも、必要な時に使えるか分からないところが難題だけどね」
「そうだね」
彼の笑顔に釣られて笑う。よかった。さっきよりずっと顔色が良くなっている。
それにしても。
立ち上がり、振り向いてアークの顔をじーっと見る。
何も感情の表れない瞳で、彼も見返してくる。
自分の顎に手を当て、首を捻った。
さっき確かに目が合ったと思ったんだけど……彼には千里眼で視ている人物に気付ける能力とかあるんだろうか? そういえば前、テレビ越しに目が合ったと思った事もあるし……。
「結芽、何一人でブツブツ言ってるの?」
清志朗君が半ば呆れた様子で腕を組んでいる。
「もう! 早くしないと夜が明けちゃうよ! 僕、ふかふかのベッドじゃないと眠れないんだ。ジーラ、頼むよっ」
清志朗君が視線を送ると、ジーラは欠伸をして頭を掻いた。
「そうだね。オレも腹が減ったな……」
そういえば、私もお腹ペコペコだ!! 昼間この時代に来てから何も食べてない!!
「ん」
しゃがんだジーラに背中を差し出される。
「う……よ……よろしくお願いします……」
私が歩いていた時より三倍以上早い。細い山道をスムーズに進んで行く三人。運ばれて行く私は居た堪れなくてジーラに尋ねた。
「重くない? ごめんね……」
ジーラは笑って
「何て言ってるか分からないんだけど……これから結構急な階段を上るから、落ちないようにしっかり掴まっててよ」
と答えた。
そうだった。忘れてたけど、私の言葉は彼には伝わらないんだった。
でも、体がルミフィスティアだから重くない……筈。
岩肌の間に造られた階段は細く、崩れたりして足場が悪い所もある。
振り返ると後ろから上って来るアークの背後に、さっきまでいた森が見えた。高さにひゅっと、一瞬息が止まる。
「ひええ……」
私ってさっきまでコマンドのマップで、もっと高い位置から地上を見下ろしていたよね!? あの時は大丈夫だったのに、胸がスッと寒くなった。
震えながら目を閉じ、ジーラの肩に回した腕にぎゅっと力を込める。
その時、ジーラの体がガクンと揺れる。
「!?」
カツーン。バラッ、パラパラパラ……。
石が転がって落ちて行く。谷底へ。
どうやら足場の弱い所を踏んでバランスを崩し咄嗟に前方へ踏み出して前屈みにし、何とか事なきを得たようだ。
「ごめん。……びっくりした」
「大丈夫だよ! 私もびっくりした」
通じないのを承知で同調する。
前方で立ち止まり私たちの様子を眺めていた清志朗君が「モコたんの導きは無情なり」と合掌しているのが気になった。
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