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分かれ道を進む者たち


「谷に発生する毒霧が収まるのが約二万年後だからね。それまでこの山の上方じょうほうと、下方から下……谷を隔てた対岸の世界は隔絶される。僕はこの計画プロジェクトの影響を調査する役割を与えられ、何度もこの地へ赴いた。だから知ってる。……東の国へ行くんだろ? この山を下ったら、もう二度とここへは戻れないよ」


「……っ」


 言葉に詰まる。


「これが……」


 清志朗君は心を殺したかのような表情で告げる。


「彼をここから連れ出す、最後のチャンスだよ」



 その時。


 コマンド画面が突然出現し、驚きで目を瞠る。

 それと同時にドンッという音と共に、強い揺れが建物を支配した。

 よろけて、ジーラに肩を支えられる。


 少しして揺れが収まり、清志朗君の呟きが響く。


「始まった……みたいだね」


 揺れる直前に現れたコマンド画面に目を落とすが、私はその内容が信じられなくて両手で口元を押さえる。


《運命の分岐点》

1アークを連れて行く

2アークを連れて行けない

3アークを連れて行く

4アークを連れて行けない

5アークを連れて行く

6アークを連れて行けない



「な……に? これ……」


 こんな……こんな内容……。


「あんまりだよ……」


 『連れて行けない』なんて選択肢があるなんて。

 今初めて、モコたんの事を恐ろしいと思った。


 画面の前で呆然としていると、再び建物が揺れ出した。


「結芽……! ここにいたら危ない! 早く外に出ないと……!!」


 清志朗君の声がどこか遠くで聞こえるような、自分には関係ない世界で起きている事のような錯覚を覚える。


「オイ! アンタしっかりしろ!」


 ジーラが私の左肩を掴んで揺さぶってる。虚ろな目で見た彼の輪郭がぼやけている。


「~~~~~、結芽!」


 ジーラに名前を呼ばれ、ハッとした。

 彼の心配そうな顔がホッとしたように緩む。


 そうだ。私に……アークの……この物語の運命が託されているのだ。

 両手に握った短い鉛筆に意識を集中する。

 『アークを連れて行く』確率は二分の一。奇数なら『連れて行く』、偶数なら『連れて行けない』……。


 膝を突く。


「お願い……!」


 絞り出すように祈ると、右手で鉛筆を転がした。


 キキキキキンッキンッ……。


 すぐに出た目を確かめた。


「…………っ、3……っ!」


 目尻から涙が零れた。得も言われぬ高揚感と目の前が明るく開けるような感覚。

 鉛筆を握り、その拳を胸に当て運命に感謝した。



「アーク」


 私は彼に手を差し出した。


「行きましょう」


 手が触れる直前、アークの手がピクッと止まったがそれも一瞬で、そのまま私の手に彼の手が重なった。


 私たちは急いで部屋を出た。背後で何かが崩れ落ちる音がしたが、振り返らずに廊下を走る。

 建物から大分離れた所……広場の真ん中くらいで足を止めた。


「ごめん……ちょっと待っ……て」


 肩で息をしている私に対し、三人とも全然息が上がっていない。皆私に合わせて足を止めてくれた。


 広場には私たちの他にも城から出て来た人々がいた。不思議な事に、それぞれまるでこれから旅に出る準備をしてきたかのような出立いでたちだ。

 その中には、先程城でジーラと対峙した王の姿もあった。


「我々もここを出る。古文書によればのち二万年、この地は死地となる。皆散り散りではあるが命が助かる道を選ぼう。……君たちの旅路にも幸運を」


 自らの顔の高さまで、王は右手を上げた。


「……貴方も」


 ジーラも右手を上げ、王が踵を返すとこちらに振り返った。


 王とは別の道から、私たち四人も山を下り始めた。



読んで頂きありがとうございます。

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