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案ずる当事者


 私たちは再びアークがいると思われる別館の前へと足を運ぶ。

 さっきと違うのはジーラも一緒というところ。

 時間帯も夕方じゃなくて夜だ。外にも灯されているあかりのお陰で、辺りはそんなに暗く感じない。


 そして訪れたその場所は何やら騒がしかった。


「やめろ離せ!」


 そんな言葉をキーキー喚いて、両腕をがっちり兵士たちに抱えられた見覚えのある男が足をばたつかせている。

 必死の抵抗も虚しく、彼は私たちの方向へと運ばれてくる。

 黄土色の髪の貴族風の男……。さっきルミフィスティアの婚約者と名乗っていた人だ。


 私たちに気付いた様子の兵士たちは道を譲ってくれた。

 擦れ違う時、自由を奪われた元婚約者の男が私を睨んできた。


「ルミフィスティア……お前は……ボクのものだ……そうだろう?」


 彼の眼が血走っていて、明らかに異様だ。見てはいけないものを見た気がして、目を逸らして通り過ぎた。


「フフフ……ハハハハ……」


 後方で笑い声が響く。

 えええ……夢に見そう……とぞおっと背筋を凍らせたが、やがて笑い声は啜り泣きに変わり彼を不憫に思った。



 別棟の扉の前には夕方はいた兵士の姿はなかった。私たちは扉を開き、真っ直ぐな廊下を進む。


 あれ? 入口……なくない?


 トイレの手前まで来てしまい、後ろを振り返る。戻って何もない廊下の壁をペタペタ触ってみる。


「おかしいな。確かこの辺りに入口があったのに……」


 ブン……。


「わっ!?」


 急に壁が右へスライドした。前方につんのめりそうになるが二歩たたらを踏んだだけで何とか転ばなかった。


 高い天井からの星明かりのみのその部屋はとても暗く、だけどとても見覚えがあった。


「……アーク?」


 暗い部屋に呼びかける。……返事はない。


 不安に思い、もう一度呼ぼうと口を開いた時……暗がりに動く影があり一瞬、息が止まりそうになった。


「ハイ……」


 薄い星明かりの下に姿を見せたアークは、静かに凪いだで私と視線を合わせた。


「よかった! ここにいてくれて。また急にいなくなって……心配かけてごめんね。未来や過去のあなたもきっと心配しているでしょう?」


「?」


 アークは意味を理解できなかったと言いたそうな仕草で、もう一度私を見つめた。


 あれ?


「私の言葉……通じてない?」


 もしかして、と思って聞いてみると「イイエ」と返され、疑問は深まった。


「うーん? もしかして、未来や過去の彼と交信できていないんじゃないかな?」


 暫くの間、沈黙を守っていた清志朗君が後方から話しかけてきた。彼は続ける。


「……今の僕みたいに」


 振り返ると、伏せていた目を上げ彼は笑った。


「これは一体どういう事だろうね? こんな事……今回が初めてだよ。モコたんなら……知っているのかな?」


 ……そういえば彼も機械人形。今の時代からだと……二万年程前の古代文明時代の人形だから、過去や未来の自分との交信や波調の移動ができても不思議じゃない。

 けれど、できる筈のその能力が今は使えないと言う。

 

 私は視線を前方に戻す。


 そしてもし目の前のアークもそうであるなら、彼は……私の事を知らないし、憶えていない……という事なのだろう。


「そ……そっか」


 堪らず下を向く。ショックが大きい。

 清志朗君の声が後ろから届く。


「結芽……知っている事を話すよ……。僕はこの地の事をよく知っているよ。『約束の地』って、今から二万年前の文明では呼ばれてた。『自動還浄化システム』の事は君もアークから聞いて知っていると思うけど……。それらシステムを維持するエネルギーがこの時代……もうすぐ底を突く。新しくエネルギーを生み出す元になる酸の受け皿になるのが、この地にある湖なんだ。酸が注がれた湖から毒素が流れ、谷一帯の動植物は死滅する。けれど、それでも。高温期が続くよりはずっとずっと…………僕は後悔していない。……僕は『約束の地』計画プロジェクトのメンバーの一人だったんだ」


 清志朗君を見ると、泣きそうなのを堪えているように口元を引き結んでいる。


「だから早く。アークをここから連れ出さないと。もし元の時代に帰れなかった時、あと二万年は会えないと思うよ? その前に君、死んじゃうんじゃないかな?」



読んで頂きありがとうございます。

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