黒衣の青年③
「貴方も……試したのですね? オレの事を」
青年の言葉に西の国の王と呼ばれたその人は兵士の用意した猫足の上等そうな椅子に優雅に腰掛け、足を組んで返答した。
「ああ。君は実に危険人物だ。それが分かったよ」
ハハッと笑う王。
あれ? 西の国の王って……もしかしなくてもルミフィスティアのお父さんだよね? この黒服の青年を試す為に刺客に娘を襲わせたの? ちょっとヤバくない?
眼は王を見据えて、笑みを作る青年。
「あー、早々にバレてしまいましたね」
そう笑った後、腕に捕まえたままの私に小さく恨み言を落とす。
「だからアンタに関わりたくなかったんだよ」
「だが……敵ではなく味方であったなら、こんなに心強い者はいないだろう。配下の者から聞いている。神の化身がこの城に現れた事。……我ら西の国は、東の国の要求を受け入れる。西の至宝……ルミフィスティアを差し出す事を受け入れよう。但し……どうか、彼女の事をよろしく頼む」
王は組んでいた足を解き、深々と頭を下げた。兵士たちも王に倣い頭を垂れる。
その様子を見守っていた青年は、やっと緊張を解いたようだった。私に回されていた彼の左腕が緩む。
「賢明な判断で助かるよ」
青年が表情を崩し、王に対しての口調が砕ける。王はそれを咎めず、少しだけ愉快そうに目を伏せた。
「でもまさか、東の至宝である貴殿が直々に使者としてこの国を訪れるとは……思ってもみなかったよ、ジーラ王子」
!? !? !? !? !?
東の至宝、使者、ジーラ、王子……!???
黒衣の青年の顔を見上げる。涼しげな横顔をじーっと睨む。
これが……ジーラ……?
ジーラ=一高のイメージが強くて気付きもしなかった。
清志朗君も得心した顔で「なるほどねー」とか言ってる。
「ジーラ? あなたジーラだったの?」
尋ねてみるが、言葉が伝わる筈もなく困った表情をされた。
尚も混乱した頭を整理しようとしていた時。バタバタと足音が響いてきて、白髪の老人が部屋へ飛び込んできた。慌て取り乱した様子で、王の椅子の前で膝を折る。
「陛下! ルミフィスティア姫様と我が息子の婚約はどうされるおつもりですか! 占いの結果は陛下もご存知の筈!」
「ああ知っている」
西の国の王は、冷めた目で老人を見下ろした。
「其方が占い師を買収して嘘の結果を言わせた事もな」
「…………!!!」
「この者を捕らえよ」
拘束され部屋の外へ連れて行かれる老人。
「さて」
王は椅子から立ち上がり、踵を返した。そして言い忘れた事があったかのように振り返る。
「神の化身が降臨された報告を聞き、古文書にある伝承を思い出した。この国も何れ滅ぶ。東の……貴殿の国に攻め滅ぼされるのではない。遥かな古に襲った灼熱の災禍が再び地上を焼くからだ。重ねて願う。ルミフィスティアを……頼む」
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