残された三人
「言うだけ言って後は僕たち任せ……みたいだね」
やれやれ、と言うように両手を『お手上げ』の形にしてみせる清志朗君。困った素振りのジェスチャーだったが、どこか楽しそうな雰囲気だ。
「そんなに睨まなくても大丈夫ですよぉ。『モコたん』にこの世界の命運を託された仲間じゃないですか。仲良くしましょう?」
尚も目線を外さない青年に清志朗君は笑っていたが、笑顔が怖いと思うのは何故だろう?
「問題は山積み……か」
青年が額を押さえる。そして横目でこちらを見た。
「貴方は……一体何語を喋っていたんだ? 聞いた事のない発音……。こちらの喋った言葉は理解しているようだったが……」
あ。やっぱり私の言葉、彼には通じてなかったんだ。十万年後の世界とかで喋ってた時は他の人にも普通に通じていたから、何となくそういうものだと思ってたんだけど。
「僕にはちゃんと通じてるよ? 僕が……『機械人形』だからかな?」
清志朗君は私に向かって笑ったが、言葉の後半からは青年の顔色を窺うように上目遣いにした眼を細めた。
「やはりな」
青年は苦いものでも噛み潰したように一瞬だけ顔を歪め、はーっと息を吐いた。
「アンタみたいな……人間らしい動きの人形……オレは初めて見た。どうやったらそんな風になったんだ? 誰かの命令でか?」
青年の問い掛けに、清志朗君は人差し指を自らの顎に当て考える素振りをした。
「僕は命令されるのって嫌いだな。どちらかと言えば命令する方かな? それより僕はアンタじゃなくて『清志朗』って名前があるんだ。そう呼ぶのを許してあげるよ?」
軽口にも聞こえる清志朗君の言葉。青年は踵を返す。そして振り返らず右手を上げた。
「馴れ合うつもりはない」
スタスタ廊下を去って行く青年。
「何、アレ」
頭の後ろに両手を組んで、唇を尖らせる清志朗君。
そして私は他の大事な事を思い出した。
「そんな……そんな事って……? 私……一回もモコたんに触ってないよ……」
せめて、あのモコモコした毛をひと撫でしたかった。
「この状況で君も……面白い人だね」
とりあえず『うらしま君』のある部屋に行ってみようと思い、廊下を曲がって奥にあった階段を下った。清志朗君も頭の後ろに手を組んだまま、口笛を吹き吹き付いて来る。
……もしかしたら。この時代のアークがそこにいるかもしれない。
一階に、大きくはない出入り口を見つけ外に出る。
もう夕方か。空は薄っすらオレンジ色に染まり、細い雲が棚引いている。風が湖の方向から吹いて私の髪を揺らした。
……雲があって、風がある。
いつも見慣れていた碧色だった湖は、今は薄い水色だ。
この時代の風景……ルミフィスティアの故郷はこんな景色だったんだ……。
石畳の広場では子供たちが五人程遊んでいる。
そこへ何やら旅人のような出立ちの大きな荷物を背負った大人たちがやって来て、子供たちの手を引いて広場の側の山道へ入って行った。
「?」
その様子を眺めながら少し離れた建物へ足を運ぶ。
いつもの見慣れた廃墟の城は、今は廃墟ではなかった。三階建てくらいの石造りの別館。広場から通れる筈の裏口のような出入り口の前には二人の兵士らしき人影があった。扉の両脇に一人ずつ立っている。
「これは! 王女殿下!」
居住まいを正す兵士二人。
「あの、ここを通りたいんですけど……」
兵士たちは首を傾げた。
「あ、そっか。私、言葉が通じないんだった」
兵士二人の間の扉を指差し、自分を指差し、また扉を指差す。ジェスチャーで何とか伝わってくれないだろうか。
私の指先の行方を見守っていた二人が慌て出す。
「だだだめです! 王女殿下でもお通しする事はできません!」
困って後ろを歩いて来た清志朗君を見るが。
「自分で何とかしなよー?」
と、面白がるようにニヤニヤされた。
うーん。困った。……。
…………! そっか。
『基本コマンド』の出番ですね!?
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