運命を握る者⑤
……この一投に……この子の……これからずっと呼ばれ続けるだろう名前の命運が懸かっている……。
モコモコした毛の、喋るネコを見る。その愛くるしいフォルム。……たまらん。
絶対私が考えた名前にしたい。だから、1か2か3の目を出さなければ。
意識を手の中の短い鉛筆に集中する。
「お願い……!!!」
1、2、3の数字を頭に思い浮かべながら、私はその鉛筆を城の廊下に転がした。
キン……キンキン……。
音が止まった。
ぎゅっと閉じていた目をゆっくり開き、出た目を確かめた。
「…………!!!」
私は自分の目を一瞬疑った。
「…………1!!!」
望んだ目のうちの一つだ。
「……やったわ。あなたの名前は今から『モコたん』ね!」
思わず駆け寄ってネコを……『モコたん』を抱きしめたくなる。
それを黒衣の青年が右手で制した。
青年の視線は未だ険しく清志朗君に注がれている。清志朗君も値踏みするような余裕のある笑みで、その視線を受け止めている。
「……むーん、結構……思ったよりも運を持っているようですニャン。でも、これからもそうとは限りませんニャン。この物語の運命を左右するので、基本コマンド使用時も心して振って下さいニャン。……我の名前、決めてくれてありがとうですニャン。今日から我の名は『モコたん』ですニャン!」
よかった。『モコたん』が嫌そうじゃないので安心する。
でも……もしもさっき、目が5とか6だったら……一体どんな名前になってたのか少し気になった。結果は1でよかったんだけど、きっと他の目が出た時は出た時で何だか楽しそうだと思った。
「ギャラリーが増えてきましたニャン。時間を取らせてしまってすみませんニャン。我はそろそろ、ここから退散しますニャン」
「ええっ!?」
思わず声が出てしまう。
せっかくモコたんの名前が決まったのに、もうここからいなくなるって言うの!? そしてギャラリー?
辺りを見回してみたが、私、モコたん、清志朗君、黒衣の青年の他は誰も見当たらないように思う。
「??」
「様子を窺ってる奴が5……いや7人いる」
「!?」
青年が視線を清志朗君から外さないまま私に教えてくれた。
え……っ。この廊下やどこかの部屋の陰から見てるって事?
戸惑う私に、彼は続ける。
「貴方のお父上の手の者だろう」
私の父……。
真っ先に逢坂家大黒柱の朗らかな顔が浮かぶが、そういえば私は今ルミフィスティアだった。ルミフィスティアのお父さんって言ったら……もしかして王様? あの、他の『うらしま君』の上で骸骨になってたうちの一人って事だよね。
「結芽、清志朗、そして……」
モコたんは黒衣の青年を見る。
「あなたたちに我の望みを託しますニャン。我にはどうしても倒したい者がいますニャン。その為に我もこの舞台で踊る事にしましたニャン。その存在は……とても強くて……とても倒せそうにないんですニャン」
それって……モコたんが叶えたいと言っていた『目的』の三つのうちの二つ目かな?
モコたん(一応この世界の神様?)でも敵わない者って……どんな強敵なの!?
「それって……ボス的な……?」
「……そうとも言えるかもしれませんニャン……おっと、あまり喋ったら『基本コマンド』の『アドバイス』の有り難みがなくなってしまうので、もう行きますニャン」
モコたんの体が光り出す。
「待って! 私の……私の元の体と、十万年後のルミフィスティアの体はどうなるの?」
モコたんの消える前に急いで尋ねる。大事な事だ。
「そちらの方は、我が何とかしておきますニャン。あっ、忘れてましたニャン。そろそろこの世界に再び高温期が到来しますニャン。人類の約半数は死滅する予定になっていましたので、くれぐれも気を付けて下さいニャン」
モコたんはキラキラと輝く光の中に消えていった。
後に残された私と黒衣の青年と清志朗君。
最後に……あれ? 割と重要な事言ってた気がするんだけど。
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