遊び相手
「ミズ君、勘が良くて嫌いじゃないよ」
すうっと目を細めて画面越しに清志朗が微笑む。
「ご褒美に、教えてあげるよ。僕のこと」
姿は少年のまま。肩まで垂らしたサラサラの色素の薄い髪を右手の人差し指でクルクル弄りながら、彼は語り掛ける。
「その世界は嘆きで溢れている。死なないなら、負担を減らせる。皆機械人形にしちゃえばいいんだよ。……遠い未来には、そんな技術もあるかもしれない。そう思い研究していたある日機械人形の素材を集めていると、ある物質の性質に気付いた。その物質を通して見る世界に、変なものが見えた。僕はその正体に仮説を立てた。そして確信した。それは魂と呼ぶものの波動の残滓なのではないかと。物質を通して見えるそれは、物質で囲う事ができた。僕で実証済みさ。フフフ……考えたんだ。僕の魂を遠い未来へ託そうとね。大成功だったよ! 五万年後の文明に発掘された僕の欠片は彼らの再現した僕そっくりの機械人形に移され、僕はまた生きる事ができたんだ」
苦しみから解放されたように、晴れやかに微笑む清志朗。その後、彼の笑顔が消える。
「僕には、ずっと心に引っ掛かっている事があった。心残り……とでも言えばいいのかな? 死にゆく僕に対する父さんたちの苦しみと……大好きだった友達へのこの感情。ああ、入院していた時に、友達がお見舞いに来てくれたんだ。最初はとても嬉しかったんだけど……もうすぐ死ぬ僕の前で、彼らは楽しそうに明日の遊ぶ約束をしていたんだ。もちろん、僕は遊べない。僕って何の為に生まれてきたんだろうって悲しく思った。だから……いらないものなら、捨てるだろ? 僕の友達だった奴らが僕を『なかった事』にしたみたいに。……そして僕に必要な人だけを残す事にした」
清志朗の瞳が妖しく光る。
「君たちは……どうかな?」
「うっ!?」
俺は突然の体の重みに、膝を突く。まるで上から押さえ付けられているかのようだ。
他の奴らは……と横目で確認すると、アークと清野も畳に手と膝を突いて苦しそうだ。その他はこの状況に戸惑ってはいるが何ともなさそうだ。
その様子を眺め、清志朗が楽しそうにニッコリ笑い指を鳴らした。
襖がスパンと開けられ、広間の中へワラワラと屋敷にあった機械人形たちが入ってきた。自我のない奴らは完全に清志朗に操られているようだ。
襲い掛かる人形たち。未だ動けず、頰に嫌な汗が伝う。人形の手が俺に触れる直前、それは右に勢いよく吹っ飛んだ。
目線だけで確認すると、一高が人形に蹴りを食らわせたらしかった。彼の呟きが届く。
「流石に、数が多いな」
動ける奴らは皆必死に抵抗している。だが、倒しても倒しても起き上がってまた向かって来る。
このままの状況で時間が過ぎれば、こちらが先に力尽きるのは目に見えている。
緊張の中、この場にそぐわない声がした。
「ふえ? 何で起き上がれないの?」
未来との交信の為、動きを停止していたルミフィスティアが意識を戻したようだ。
「アーク、未来のあなたから聞いたんだけど、五万年後に見つかったエネルギー波は今の時代にも存在しているから……だから今までも……ああもう! エナジーチャージ!」
体が動かないのにイラッとした様子でルミフィスティアが叫ぶ。広い部屋の中に、キラキラした光が降り注ぐ。
「私たちの能力、使えたのね?」
ルミフィスティアが起き上がる。俺も、アークや清野も立ち上がる。
「体が……楽に……」
回復した俺とアークも加わり、操られている人形を制圧、美紡子たちによって強制終了されていた。
「やだなぁ。不粋だなぁ。せっかく楽しんでいたのに。皆も、ヒヤヒヤして楽しかっただろ?」
清志朗の非道な言葉に、高太郎が悲痛な面持ちで呼び掛ける。
「清志朗兄ちゃん……」
変わってしまった憧れていた人へ。
「高太郎、久しぶり。大きくなったなぁ」
清志朗はフフッと笑う。
「今日のは挨拶だよ。また遊んであげるから楽しみに待っていてね」
ニコッと笑った彼が後ろを向くと、ブラウン管テレビの映像は切れた。
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