姿を現した敵と味方
アークと手を繋いで森から出た。
石畳の広場へ下り立つと、意外すぎる人物が腕を組んで仁王立ちしていた。
「結芽~! どういう事なの~~~!??」
「るっ!? ルミフィスティア!!?」
話を聞くと、過去のアークに改良してもらって今の彼女と同期しているらしい。
ルミフィスティアには珍しい黒いロックバンドをイメージするような服を着ているのが気になったが、十万年も経つと服の趣味も変わるのかもしれない。
「私から結芽を奪うなんて、やっぱりいけ好かないわね」
私の頭を抱きしめて、アークに舌を出すルミフィスティア。
「結芽を返さない気なら邪魔して邪魔して邪魔してやる!!!」
「それは困りましたね」
はー、と溜め息をついて笑うアーク。
「あなたに攻撃したら結芽が悲しむでしょうし」
コクコク頷く私。
「私は大丈夫です。すみません、我儘を言いました」
こちらに微笑むアーク。私にはそれが悲しく映った。
不安に、胸の前で手を握り俯いた。頭の中の自分の気持ちを、一つ一つ言葉にしていく。
「私も我儘を言うね。私は……あなたを好きになった。でも、今ここにいるアークも、過去のアークも、どっちのアークも好きだよ。私は……我儘が許されるなら、あなたの全てを……過去のアークも今のあなたも、二人とも大切にしたい」
握っていた手から目線を上げ、アークに伝える。
「だから……絶対に何度でもこちらに『帰って』来るから。心配しないで」
「寂しいなら結芽が眠っている間、私が話し相手になってあげてもいいわよ?」
「いりません」
ルミフィスティアの提案に即答したアークは私の左手に触れた。そのまま引き寄せられ彼の腕の中に閉じ込められた。
「絶対ですよ。あなたを……信じています」
うーん。よく考えたら私って二人のアークを手玉に取る浮気者なんじゃないかな?
絶体絶命恋心の歌詞とリンクしている……。あの歌……これからあまり歌わないようにしよう……。
ルミフィスティアは「世話が焼けるわね」とホッとした表情だ。
「ごちそうさま~」
★~★~★~★~★~★~★~★~★~★
「俺さ、よく知らないんだけどアンタら何で『革命』とやらを起こしたのさ? とてもそんな物騒な事しなさそうな奴らがさ」
ルミフィスティアが未来に交信している間、俺はふと気になっていた事を聞いてみた。
一高をはじめとして皆歯切れが悪い。
「ミズ、直球で聞いてくるんだな。そこがお前の良いところだよ」
由治が何やら暗くケタケタ笑っている。
「儂から話そう」
一高の父親という六十代くらいの小柄な男が重い口を開いた。
「清志朗という清野の叔父としている人物の死を受け入れられなかった清志朗の父は、友人であった儂に清志朗が研究していた人工生命体……通称機械人形として再び清志朗を蘇らせようとする計画を持ちかけてきた。儂は一水の憔悴しきった姿に、断る事ができんかった」
遠くを見るように目を細め、続ける一高の父親。
「研究が行き詰まってこの計画も頓挫すると思った矢先、『組織』の本部が我々にコンタクトを取ってきた。……この技術を使えば機械人形は完成できるだろうと……。だが、引き替えに人類の多くを滅ぼさねばならないと。儂らは確かに悪魔に魂を売ったのだ。……そして儂らは組織を拡大していった。本部の指示で、親に捨てられたり虐待されたり……そんな子を引き取って『教育』を施し我々の駒にしていた。……由治もその一人だ。世間をひどく憎んでいた。儂らはそれを利用した」
話を聞いていて、気になった事がある。
……まさか…………。
「この時代の文明に、俺らみたいな機械人形はちょっと性能良過ぎると思ってたんだよな」
五万年後の文明から来た……いいや。五万年後の文明の人間が『今』に干渉している……?
「おい、おやっさん。本部とはいつもどうやって連絡を取っているんだ?」
「ああ、そこにテレビがあるだろう?」
広間の壁際のテレビ台に、古い黒のブラウン管テレビが置かれている。壁掛けや薄型が主流の今、部屋の飾りとして置いてあるぐらいに思い、誰も気に留めていない様子だったのだが。
「連絡は、それで行っている」
その時。映らない筈の画面に明かりが点く。
「ハロー? 皆! ミズ君ご明察〜!」
『なっ……?!!』
その場の全員が凍り付いた。
モニター越しに笑いかけてきたのは、死んだ筈の清志朗その人だった。
読んで頂きありがとうございます。
もしよければ下の「☆☆☆☆☆」から評価・応援して頂けると励みになります。ブックマークもとても嬉しいのでどうかよろしくお願いします……!