旅人たち
「はーい。ここが東の都、入口でーす」
ミズさんが明るい声で告げる。
「ここが……」
「東の都……」
私のため息混じりの呟きに、エイジャが門に圧倒されたような声でその先を紡ぐ。
疲れ切っていたが、それでも見上げずにはいられない。東の都を出入りする多くの者が行き交う、高く堅牢で白い門。両サイドの塔の屋根の先が尖っている。
フラフラと足元の覚束ない私の腕を背後から支え見下ろすアークを見上げる。目が合った。ニコッと笑って大丈夫さをアピールしてみたが、アークの眉間の皺は消えなかった。
川を下って、砂漠を越えて、沼を渡って、やっと……やっと辿り着いたのだが、それらの思い出よりも道中のミズさんの昔語りが強烈に心に残って思い返すと旅の記憶というより『東の王国伝説の狂戦士秘話口伝ツアー』じゃなかったのかなというくらい……ほぼその話しか思い出せない。
門を通り都へ入ると、まっすぐと広い通りに彩り豊かに布の日除けを付けた屋台が所狭しとひしめき、無数の人々で混雑していた。
「うっわーーー」
エイジャが感嘆し見惚れている。
私もその色鮮やかな街並みにワクワクする胸を押さえた。
空色、橙、赤、白、青……。
棒付きの飴を持って追いかけっこする子供たち。威勢のいい店のおじさん。立ち止まって長話している日傘のおばさんたち。
辺りは香ばしい匂い、甘い匂い、肉を焼く音、笑い声……騒がしくもどこか好ましいと思える雑然とした風景があった。
通りの先には、とても大きな城が聳えている。この東の都のシンボルだというその城は何度も焼け落ち崩れた過去があるが、その度建て直され今日までそこにあるという、大昔からの遺跡でもある。
「あら? ミズじゃない。こっちに帰って来てたのね」
ミズさんに手を振ってこちらへ歩いて来る白い日傘の女性。
「あなた、相変わらず若いわね。どうやったら若さを保てるのかしら? その秘密を教えてほしいわ」
その二十代後半くらいの女性は私に気付き「うっ」と小さく呟いた。上から下まで眺め回されて「負けたわ」と敗北宣言された。隣のアークにも目をやりぎょっとしている。
「リコ」と名乗った彼女は、ミズさんの友人らしい。小さい頃からミズさんを知っているが、彼が全然歳を取っていないのでその秘密を探っていると言う。
「厄介なのに捕まったなぁ」
「何ですって?」
「スマン! 先に宿に行っててくれ。後から行くから。宿は突き当たりを右ですぐ左側だ」
エイジャがミズさんから宿代の入った袋を手渡される。
程なくして三人で宿屋を見つけた。
「ほぉーう」
エイジャが宿を見上げて思わず、といった風に声を漏らす。
三階建ての宿屋はエイジャの村の小ぢんまりした宿屋と比べ、明らかに大きく立派だった。看板の絵文字で食堂も併設されていると分かった。
「すごい……これが……都……」
彼女は興奮が収まらないといった面持ちで、心の目に焼き付けているかのように辺りをキョロキョロし続けるのだった。
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