旅の道連れ③
「な……!?」
おじさんと店の客たちの視線が私たちに集中する。
「何だあの美女は……? 目が潰れそうな程に美しい……」
「うっ! 何だコレ……心臓が痛い……」
「神々しく凛とした佇まい……あのお方はまさか……?」
客たちがどよめき、さざめきが私の耳にも届いた。
うん。だって外見ルミフィスティアだもん。私もそう思うよ。
「この方こそ神域の女神様です!」
エイジャが得意そうに述べる。
『おおっ!』
どよめきが大きくなる。
私の無言の視線に気付いたエイジャが「あっ!」と言った。そして自身の人差し指同士をつんつんつつきながら、口の中でゴニョゴニョ……
「ゆっ……結芽……です……」
と何やら恥ずかしそうに訂正したが、客たちは誰も聞いていない。
店のおじさんはほーぅとため息をつき、目線は私に向けたままミズさんに話しかけている。
「たまげた……あんな美人、どこぞの姫でもいやしねぇぞ。女神って言うのも信じちまうな。隣の男も見た事ねぇくらい美丈夫だ。何だミズ? あの『女神様』を探してたって事は嫁にでもするのか?」
食堂にいた全員がミズさんを振り返る。
彼は私の隣のアークをちらと見た後、おじさんにへらっと笑った。
「やめてくれよ。そんな事……できる訳ないだろ? 俺だってまだ死にたくないんだ……。それに俺には心に決めた人が……」
「うおっ! またか!!! またあの美紡子って姉ちゃんの話かっ!」
「そうだよ」
「またずっとその話をするなら、お前はもう出禁だ!!! 二度とこの食堂の敷居は跨がせん!!」
「えー!」
ザワザワ賑やかな食堂で夜は更けていった。
客たちが遠巻きに見守る中、私たちは店の料理を堪能した。お肉の煮込みスープみたいなのが絶品だった。
店のお代はミズさんが出してくれた。
「どうせあの山に籠っていたから今の金、持ってないんだろ?」
と彼がアークに言い、アークは頷いていた。
「心配だな」
……と、宿屋にも付いて来てくれた。
「俺も泊まってんだ、ココ。狭くて古いけど快適だぜ。せっかくこっちでも久々に会えたってのに……明日から東の都に帰ろうと思ってたんだ。この村に寄ったのも偶然、たまたまだしなっ」
世話焼きのミズさんの事だ。私たちの様子を見に来てくれたんだろう。
そして新たなワードに興味をそそられる。
「東の都……?」
「俺が元いた所だ。ここからは結構遠いな……」
「私も話を聞いただけなんですが、何でも色鮮やかな市場があるらしいですよ! 古今東西の美味しいものが並び、それはもう人で溢れているらしいです」
エイジャが夢見るようにうっとりしている。
私は隣のアークの顔を下から覗く。
「分かりました、いいですよ」
「!」
何もまだ言ってないのに、許可が下りてしまった。
「流石だな、結芽。二人共ポンコツで危なっかしいから、俺が東の都まで連れてってやるよ」
「わ……! 私も行きますっ!」
手を挙げるエイジャ。
「結芽と一緒に……美味しいものを食べたいです!!」
「決まりだな」
ニッと笑ったミズさんが、アークの肩に手を置く。
「明日はここを発つ。今夜はゆっくり休む事。いいな?」
エイジャは「準備しなくちゃ!」といそいそ自宅へ帰って行き、ミズさんは私たちの部屋を手配してくれた後、自分の泊まっている部屋へ入って行った。
「…………」
分かってたけどアークと二人、同じ部屋だった。変に意識してしまうけど、顔が赤いのを悟られないように早めに眠る事にした(本当はお風呂に入りたかったけど、入り方が分からないので今度エイジャに教えてもらう事にする)。
二つあるベッドのうち、壁側のベッドに横になる。疲れていて、すぐにでも夢に落ちてしまいそうだ。
「おやすみなさい、アーク」
アークも横のベッドで眠るのかなと思っていたら、私の横になったベッドの端に腰を下ろして髪に触れてきた。
「…………」
暗い部屋、月明かりに青白く浮かぶ顔は寂しげで。
(何でそんな顔をしているの?)
昼間歩いた疲労と眠気に逆らえず、その問いは言葉にする事ができなかった。
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