大切な人
「なっ……?!」
トイレを出ると、家に帰って来た姉と鉢合わせした。玄関のこの光景……以前、見た事ある……っていうか増えてる……。
思わず出てしまった声に、父が居間からやって来る。
「何だ、どうした?」
そして絶句する父。わなわな震え出し……
「なっ……!? 四人も……だと!!?」
そのまま玄関の床板に膝を着いて呆然としている。
以前一度、父を襲った衝撃が……更にパワーアップして訪れたようだった。
それは昨日の夜……突然訪れた嵐……。
姉は男性四人を連れて家に戻って来た。
そのうち二人は元からこの家に仮住まいしているアークと一高さん。後の二人は問題が起きて今、住める場所がないとの事。短い茶髪に程よい筋肉の青年と、明らかに体力なさそうな不健康そうな顔の少年。
家が決まったら出ていくので、それまで住まわせてほしいと言われた。
姉が二階にハーレムを形成しだした。
手狭な為、オレは一階へと部屋を移らざるを得ない。
姉ちゃんは……モテないと信じていたのに……っ!!! じゃあオレもモテるべきだろう!!? 姉弟なのに、何この差!!?
姉の乱れた交友関係を想像してしまって、怖くて二階へは行けなくなった。
今まではアークと一高さんが牽制し合っていたからノー天気な姉はそのままの姉だったけど……さすがにこれは……。少なくともそのうちの誰かとはくっつくだろ……。
いらぬ心配だった。
由治は一高さんの女に手を出すなんて自殺行為だとガタガタ震え出したし、ミズさんに至っては姉の事を尋ねたのに美紡子っていう女性の良さを延々と語り出し、そのまま二時間聞かされ続けた。
だが……姉はノー天気な姉ではなくなっていた。
まさか……遂に誰かとくっついた……?!!
ピシャーンと頭に雷が鳴った気がした。
以前の姉はもっとこう……ガサツで……自分の世界に入っている事が多くて……色々ツッコミを入れてきたりする……変……まぁ、面白い系の姉だった。
だが、今のこの人物は……何と言うか……お淑やかで……気品があって……可憐……。
頬を染めている自分に気付き、慌てて首を振る。
姉に何考えてんだ、気持ち悪い。
オエーと舌を出す。
父と母も心配していたらしく、しきりに姉に「結芽ちゃん、何かあった?」とか「具合悪いのか?」とか聞いている。
姉に一体……何があった??
アークが時折、悲しそうな表情をしている。この人……何か知ってるな?
廊下でアークを呼び止めた。
「姉ちゃんは……どうしちゃったんだ?! アーク……何か知ってるんだろ??!」
「……っ! 結芽は……」
一高さんも居間から出て来た。
「話してもいいだろ。協力してもらおう」
階段の上に姉ちゃんがいた。悲痛そうな表情で告げられた。
「私は……結芽ではありません。黙っていてごめんなさい……」
そして父、母、オレ、アーク、一高さん、ミズさん、由治、ルミフィスティアさん……八人が集まって、第一回逢坂家家族会議が開かれた。
そこでは姉を取り戻す為の作戦と……ミズさんが気になっていた事をアークに相談し、さんざん皆で話し合い、ある事が決まった。
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