兆し持つ者
私はルミフィスティアの言葉に衝撃を受けて凍りついたように立ち尽くした。
ルミフィスティアはそんな私を置いて一人、ズンズン怒りに任せた足取りで帰って行った。
私は自分の行いを振り返った。
女性に触れた……?
ルミフィスティアの言葉の真意は分からなかったが、女性に触れたいと思ったのは結芽だけだ。
満月の夜、言葉だけじゃ足りない気がして手を握った。彼女が泣いていたので涙を拭い去りたいと思った。少しだけ微笑んで見上げたその姿がいじらしくて、堪らなくなって思わず抱きしめた。
ルミフィスティアの言葉が甦る。
『好きでもない女に、軽々しく触れるものではないわ』
そこで、はた、と考え至る。
自分は結芽の事が好きな事を自覚している。何よりも大切だ。結芽は……?
好きでもない男からの抱擁など、迷惑以外の何ものでもないではないか。
何となく、結芽も自分と同じ気持ちだと思っていた。その時は。後からジーラ……一高が好きなのかもしれないと気付いて諦めようと思っていた。気持ちを殺して一高との仲を祝福しようと……。けれど。
もう二度と会えないかもしれない。
その予感に、動けず立ち尽くした。
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「女神様……!」
広場だった石畳の上に森から下って来ると、それを見つけたエイジャが慌てて駆けて来た。
「大丈夫でしたか? 神様とは会えましたか?」
(私たちを神様と勘違いしているの、この子)
「ええ、会えたわ。もう今アイツの話しないで! ホント、イライラするから」
自分でもびっくりするくらい強い言葉が口を突いて出た。
あまりの口調に、エイジャは口を噤んだ。
そこへ、ミズが割って入る。
「あー。俺、彼女を村まで送ってくわー」
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険しい森を二人で下りながら、エイジャは俺に話しかける。
「私の傷の手当てしてくれたの、あなたですよね?……その……ありがとうございました」
「あー、いいって俺、美紡子の仇じゃない人には結構博愛主義だからー」
エイジャは、少し躊躇った素振りの後、さっきの話題を持ち出した。
「女神様、怒ってましたね」
「あー、俺が悪かったんだわ。分かってて、アンタを二人に嗾けたんだよ。ごめんね」
へらっと笑ってみたけど、エイジャは分かっていないようだった。
「?」
「まー、二人は今、痴話喧嘩中なんじゃね?」
「そうですか……」
俯くエイジャ。
「何だ何だ? あの男の事、好きになってたのか?」
「えっ! いや、そうじゃなくて……まぁ、王子様みたいって憧れはしますけど……。……最初会った女神様と、後から会った女神様……どちらと痴話喧嘩中なのかなって思いまして」
「へぇ」
感心した俺は目を細めた。
「中身が違う事、分かるんだ」
「何となく……。最初会った女神様は、違う色……例えるなら赤と青が二つ、くっついているみたいなイメージで」
エイジャは口を開けて少し躊躇い、僅かな間の後声にした。
「さっき会った女神様は……二つの色が重なって紫のような……とにかく大きな光のように……そんな風に見えました」
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