嫌いなもの
私はアークがミズを改造している間に逃げた。アークがエイジャと名乗る少女と恋仲ではないかと、彼が彼女を選んだのではないかと考えてしまう。それ程までに自分に自信がなかった。この黒く醜い感情は確かに私のものだ。
森の深くで、木陰に蹲り泣いていた。
「見つけましたよ、結芽」
息を切らして、頭に枯葉を付けた姿でアークが優しく微笑んだ。
「帰りましょう」
手を差し出されるがイヤイヤをする子供のように、蹲ったまま首を振った。
瞳に涙を湛え、アークを見た。今、気付いてしまった。
私は卑怯だ。彼なら、私を捜しに来てくれるって思ってた。あの子より、ずっとずっと自分の方が好かれているって心の底では思ってたんだ。
もし来てくれなかったら森を彷徨って死んでしまえばいい、自分なんて。そう考えたんだけど、考えただけだった。ルミフィスティアもいるし、そんな無責任な事は流石にできない。
アークが来てくれて内心喜んだ私に気付いて、分かってしまった。
私はまだ何もしていない。
他人が与えてくれるのを待って一喜一憂して、だだっ子の子供だ。
こんな私じゃ、彼には全然相応しくない。
私ができるのは……。
一番伝えたかった言葉を呑み込んで、彼に笑いかけた。
「アーク、ありがとう……」
そして、ルミフィスティアにこっそり囁いて目を閉じた。
『ルミフィスティア、幸せになってねーー』
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目を開けると自分の中に結芽の気配を見つけられずに心配で青ざめる。
「結芽……?」
呟いたが返事は返って来なかった。
一部始終を結芽の中で見守っていた私……ルミフィスティアは怒っていた。
アークに対して。
(この男は……)
「ルミフィスティア……結芽は……」
結芽の気配を彼も見出せないのか、焦った様子で詰め寄られる。
「ちょっと! 私の傍に寄らないで!」
嫌悪感を露わに立ち上がった。
「あの子今、私の中に見つからないの」
罵るように見下して言ってやった。
「あなたのせいよ! 好きでもない女に軽々しく触れるものではないわ。結芽も嫌気が差したんじゃないかしら?」
嘲笑った。
昔の……三万年前に生きていた私には想像もできない強気な性質は、大きな後悔をその魂に背負ってしまったから生まれたのかもしれなかった。
「私はもう、後悔したくないの」
強い瞳でアークを睨んだ。
「彼女を泣かせるのなら、あなたには渡さないわ!」
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