渦中の人
「試したのですか? 私を」
屋敷に向かう車内で、私は質問を投げつけた。
この男の考えが読めない。
乗っている黒の車は一目で高級車と分かる。車内も広さがあり、向かい合って座っている。
「知りたかったんだアーク、お前の本気を。お前の……あの二人に対する覚悟を」
「……っ、私は……」
なおも否定しようとする私に
「オイオイ、オレに嘘は通用しないぞ?」
見透かしたように余裕の表情で笑む一高。
そんな私たちをよそに、それぞれ黙って座っている由治とミズ。一高の隣に由治、私の隣にミズといった配置だ。
ミズは一高の呼んだ組織の『黒服の医者』に治療され、肩と腹に包帯が巻かれている。
二人共、まるでこの車内が恐怖の空間であるかのようにブルブル震えながら早く目的地に着くよう強く願い続けているように見えた。
「一高様! 急にどうしたんですの?」
出迎えた美紡子は真っ先に一高へ駆け寄り……後の二人に気付いた。
「あら、あなた、同じ研究所の……」
由治を見て記憶を辿る素振りをしていたが、彼の薄汚れた服と体臭に気付き風呂へ入るよう使用人に手配させた。連れて行かれる際、由治は心細そうにこちらを見ていた。二週間も閉じ込められていて、それを行った主犯格の家の者たちに預けられるのだから不安なのも分かる。
「そしてあなたは……開発中だったミズC‐03ね」
彼女が覚えててくれた事に感動した様子で、ミズは瞳を輝かせた。
「美紡子……ほんとに……生きてる……」
「な、何? 私が死んでるとでも思ってた訳? この子。失礼しちゃう!」
彼女は怒っていたがその姿も大切なもののように見つめ、ミズは彼女を抱きしめた。
「なっ!? なん……っ! ちょ、やめっ! 一高様の前でなんて事してくれるのよ! 離れてっ!!」
彼女は気付いていなかったが彼女の肩に顔を埋めたミズは、声を殺して泣いていた。
「さぁ、あんたの目的も果たせたみたいだな」
一高がミズをニヤリと見る。何か良からぬ事を企んでいそうな眼をしていると感じた私は、二人の間に割って入った。
「一高……説明して下さい。あなたが……何故組織の人間である事を隠し、私たちと一緒にいたのか」
一高はフッと笑って言ってのけた。
「オマエがルミフィスティア(おまけで結芽)と同居しようとしてたからだろ! 好きな女が彼女を狙う他の男と一つ屋根の下とか、ぜってー嫌に決まってるだろ!!!」
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