強敵
一高が駆け出し、私の懐に飛び込んで拳を打ち出す。
空気を振動によって操作し生み出した衝撃波でその拳を弾く。
一高は後方へ跳んでその威力を受け流し、歩道橋の反対側に膝と手を着いた姿勢のまま笑った。
「流石だな」
「!」
放たれた小さめのナイフが私の右腕に刺さった。二本はどうにか躱せたが、一本は避けきれなかった。彼は靴の中に小型のナイフを隠し持っていたらしい。飛び退ってしゃがんだ時にそれを手品師のような早さと手腕で放った。
「ごふ」
「大丈夫か!?」
後ろで何か聞こえたが振り返る余裕はない。余所見すれば死へと繋がる。
この私が……まさか死を恐れるなんて……。
彼の戦闘センスは天才的だ。勘もいいし容赦もない。それはジーラの生きた時代には必要な生きる術だったのだろう。
冷や汗が頬を伝う。今まで感じた事のない気持ちの昂りを感じながら、睨み合う。少しでも気を抜いたら負けだ。
走り出す。一高も構え、私の放った衝撃波を避けつつ歩道橋の手すりに逆立ちして面白そうに眼を細めた。
「そうこなくちゃ」
そのまま私の背後に着地し反動を利用し下から蹴り上げてくる(「ヒィ!」と私たちの横で由治が手すりから仰反り、巻き添えを食らいそうになるのを避けた)。私の鼻先を風が掠める。バランスを崩す……!
咄嗟に衝撃波を生み出し彼を弾き飛ばそうと手を出すが、彼が一瞬動きを止めたのに気づいて躊躇いが生まれた。
「アホ」
冷たい目で打ち込まれた回し蹴りを腕で受け止めはしたが、その重い一撃に膝を着いた。
屈んだ一高は私の腕から躊躇う事なくナイフを抜いた。
「アイツにとって危険だと思う者に容赦するな。必要なら、躊躇なく殺せ」
昏い瞳が鋭く光って、私の胸に言葉を刻む。
「お前がそんなにヘタレなら、まだ任せる訳にはいかない」
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通行人がわらわら歩道橋下の道から遠巻きに見ている。「映画の撮影か?」と言う声が聞こえる。
ちょっと遊び過ぎちまったか。アークに灸を据えられたようなのでこれでよし、とする。
「由治、何日も閉じ込めて悪かったな。美紡子に用事だろ? 案内する」
由治は今もまだ手すりから後ろに仰け反ったままの姿勢で、無言で頷いた。
オレが背後を振り返ると、起動してなかった筈の機械人形ミズC‐03が腹と左肩にナイフが刺さった状態でしゃがみ込んだまま意識を失っていた。
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