同じ舟に乗る敵は……味方?
俺は……俺は負けた。
『美紡子に会える』……その誘惑に負けた。
拘束していた女は、とりあえず殺さないで(成り行き次第では殺すかもしれない)奴らの話に乗ってみる事にした。
「……っ。会えなかったら、タダじゃ済まないぞ……」
「はいはい」
渾身の睨みで脅したがアークはどこ吹く風だった。
俺は今、廃墟の城の部屋……そこにある台のうちの一つに寝かされている。
『同期できるように改造しましょう』と詰め寄られ、連れて来られた。
「大丈夫です。痛みのないように気を付けます」
それはつまり、気を付けないと痛みがあるって事だよな……。
アークの話によると、一高(美紡子は自分の夫と言っていたが実際は彼女の片想いで結婚していなかったらしい)が駅前の歩道橋下でアークに殺されて死んでから美紡子は塞ぎ込んだ。そして自身が所属する組織について疑問を持つようになり、開発中だったミズC‐03……つまり俺を連れて逃げ出した……という事だった。
アークと金髪の女、狩人の娘が見守る中、俺は眼を閉じた。
次に眼を開いた時、真っ暗で、何だ?! と思い上半身を起こした。身に掛けられていた毛布のような布がバサリと落ちた。
「ヒィィ、エッ!??」
大きく奇声を発した人物を確認する。目を見開きこちらを凝視して尻もちをついたまま少しずつ後ずさりしている。
灰色の混じった少し長めの短髪で緑のトレーナーと紺のズボン、その上から白衣を着ている。部屋の造りも研究所と似ている事から組織の人間だと認識する。
すぐにでも殺す事はできるが俺には目的がある。
俺は自分の手の指を開いたり握ったりして感覚を確かめた。今着ている服も一番最初の……起動された時に着ていたものと同じだ。どうやらアークの言っていた事は本当らしい。
「か……勘弁してくれよ……こんな状況で怪奇現象かよ……」
「オマエ……組織の者だな? 八蘇美紡子の所へ案内しろ」
★~★~★~★~★~★~★~★~★~★
突如動き出した機械人形は、尻もちをついて涙目のボクに意外な人物の名を出した。
「ふへ? 八蘇……ああ、みっこ姐さんか。今は知らない。ボクが知ってんのは裏切り者のアークの居場所くらいなもんだ」
白衣の中の胸ポケットから点滅するボタンを出す。
「アークに近付くと点滅が早くなる」
「よっし」
あっと言う間にボタンを奪われた。
茶色い短髪の人形はボクをひょいと抱えていきなり回転したかと思ったら、その反動で壁に回し蹴りを食らわせた。バラバラと土壁に穴が開く。
「ひ……!? ひええ???」
状況が呑み込めない中、人形はボクを抱えたまま外へと跳び出した。
地面にしゃがんだかと思えば人の規格を大きく外れた跳躍力で高い塀の上に立ち、そのまま道路を隔てた二階建ての家の屋根へとジャンプした。
お姫様抱っこのような格好で運ばれていくボクは、彼が二軒目の屋根に跳んだところで失神した。
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