望む者
この『神域』へ辿り着いてから……俺はアークがかつて至宝と呼ばれた存在……組織関係者の子孫から片時も離れず傍にいるので「まじかよぉ」と辟易していたが、狩人風の村娘が『禁域』に迷い込んだ事に気付き泳がせてチャンスを窺っていた。予想通り彼女は『神域』へと辿り着き十分な隙を作ってくれた。狙っていた獲物は、もう俺の手の内だ。
「こいつで多分、最後だな」
長かった……。
「遂に根絶やしにしてやった!!」
腕を掴んでいる金髪の女……仇の子孫が身じろぎして逃れようとするが、そんな弱い抵抗で俺を振り解ける筈もない。
彼女を盾にしているのでアークも攻撃できずにいる。今彼女を殺したら、もちろん俺もアークに殺されるだろう。
構わない。俺の悲願が叶うのだから。やっと……。
大好きな人の優しい顔が胸をよぎる。
「これでやっと……美紡子の魂も浮かばれる……」
「ん?」
腕を掴んでいる金髪の女がピクッと反応した。
「美紡子……? いやいやいや、まさかね」
一人、首を振っている。
何だ? おかしな女だ。
「あ、あの……」
女は俺が許可していないのに喋り出した。
「美紡子さんってもしかして、まさか……八蘇美紡子さん……?」
「……何で彼女の名前を知っている?」
横目でチラチラ後ろの俺を見ていた女が、眼を丸くする。
「あっ、あの、一高ラブの美紡子さん……!?!!」
掴んでいた手を放し、すぐに女の喉元……服の襟首を掴む。
「何でお前が彼女を知っているのかと聞いたんだ」
美紡子の夫の名は、確かに『一高』だ。
両手で服の首元をぎゅうっと締め上げる。
「けほっ」
俺の手で生死も握っている筈の非力なこの女が、得体の知れないもののように怖ろしく感じた。
「彼女を放して下さい! ……八蘇美紡子は……確かあなたを連れて逃げ、組織を追われていた人物ですね」
黙ってアークを睨む。
「この前……」
女が苦しそうに口を開く。
「この前、会いました……」
全身に衝撃が走るが、すぐにそんな筈はないと睨みながら笑ってやる。
「苦し紛れでも、そんな嘘は為にならないよ?」
締め上げる手に、更に力を込めようとした。
「……っ! あなたは! 彼女の……八蘇美紡子の仇を討とうとしていたのですね……」
焦った様子のアークが言ったが、時間稼ぎだろう。もう、惑わされない。
「彼女は生きています」
アークの言葉に、迷わないと決めた決意も消し飛び頭の中が真っ白になった。
「え……」
たとえ嘘だとしても、ずっと待ち望んでいた言葉……救い。
「正確には……一度目の『時の流れ』では死にましたがその後、過去を私たちが変えてしまった為その時代……十万年より前……あなたが造られた頃の時代に生きています」
「嘘……だろ……? そんな出任せ……」
「私は過去の自分と交信する……同期のような事ができるシステムを五万年前の文明より授かっています。あなたは人として暮らしていたようですから知り得ない情報でしょう」
「過去の自分……同期……?」
「私が……あなたを改良して、そのシステムを付与する事もできます」
俺は自分の体が強張るのを感じた。アークは言葉の意味を告げる。
「つまり……過去のあなたを通して実際に彼女と会う事が可能になります」
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