死神
「私……私がいます。神様。私が傍にいますから……っ」
「アーク……その人は誰?」
十万年後の世界で目覚めると、アークが……知らない女の子と見つめ合って手を握り合っている場面に出くわしてしまった。自分でも何てタイミングだろうと思う。
何となく十万年後の世界には私とアーク、二人だけしかいないと思っていたので、こちらの時代で初めて見る人物に興味はあったんだけど……。それよりも……。
アークの手を握って身を乗り出す少女、ハッとした顔でこちらを見たアーク、二人の距離、繋がれた手……。
「初めまして、女神様。エイジャと申します。女神様が眠っていらしたので神様と一緒に目覚めをお待ちしていました」
ピクッと、一瞬自身の体が強張ったのが分かった。
……『一緒』に?
私たちを神様と勘違いしているらしい彼女は、悪びれたそぶりも見せず名乗った。
彼女から手を離したアークがこちらに向き直る。
「迷子です。谷の毒素が消えて暫く経つのでほんのたまに、この地へ迷い込む者が現れます」
彼の声が遠くから聞こえているみたいに話が頭に入ってこない。
(じゃあ何故、手を握っていたの?)
頭から冷水を掛けられ更にその上から雷を落とされた気分だった。
思いがけない衝撃に唇がわなわな震え出し、動揺を隠す事ができない。
そうだわ。私アークの彼女じゃないし彼が誰とどうなろうと何も言えない……。
思い至るけど、もう想いを伝えるには遅いのかもしれない。
せめて弱気な姿は見せまいと下唇を噛んで堪えたが、涙が盛り上がってきてしまい堪らず駆け出した。
「結芽っ!」
後方で声が響いたが足を止めなかった。
姿がいくらルミフィスティアとはいえ酷い顔をしていると分かっていたから。
石畳の広場へ出たところで何かにぶつかった。
「わっ」
ぶつかったのは人だという事を、腕を掴まれた後で気付いた。
引き寄せられ、後ろ手に捻り上げられる。
「痛っ!」
追いかけて来たアークと視線が合う。
そしてアークは私を後ろから拘束している人物をきつく睨んだ。
「侵入者がもう一人いる事は気付いていましたが、まさかあなただったとは……『死神』……いいえ……ミズC‐03」
「懐かしい名前だな」
私のすぐ後ろで、男が愉快そうに笑う気配がした。
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