表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
38/151

好敵手③


 泣くまいと思っていたけど気持ちが高ぶって勝手に涙が出てきた。

 高校生の少女に馬乗りになって涙をぽたぽた垂らしながら叫ぶ。


「一高様はねぇっ! ぶっきらぼうであまり何にも興味ない風だけど困ってる時は必ず助けてくれる、すんごく優しい私だけの王子様なのよっ!!」


「……っ! ジーラ様は私にも優しいし笑った顔は可愛いし、私たちは運命という絆で結ばれているんだから!!」


「クーーーッ!!! ジーラって何よ!? 私の知らない愛称で呼ばないでよ!! それにあなたの言った事はあなたの思い込みよ!!」


「そっちの方こそ!!」


 ムキーーーッ!!!


「私はねぇっ! 小さい頃から彼だけを見てきたの。ずっと好きだったのよ。あなたなんかに負けないわ!! 誰にも負けない!! 彼は私が幸せにするの!!」


 私の言葉に彼女は一瞬ハッとしたように息を呑む。少し羨まし気な眼差しになり


「………………いいわね。そう。私の負けね」


「えっ?」


 突然の少女の敗北宣言に意表を突かれ、掴んでいた彼女の肩に置いた手の力を弛めてしまう。だが彼女は逃げる事もせず仰向けに寝転がったまま力なく顔を横に背け、薄く笑った。


「私は……彼がもし私の事を好きだとしても両想いでも……想いを伝える気はないから」


 再びこちらを見上げた時には覚悟を決めたようなをしていた。


「どういう事ですの!?」


 ライバルが突然悲しそうな顔をして「想いを伝えない」と強い瞳で宣言してきたので拍子抜けし、事情を聞こうと思った。調子狂っちゃう。


 詳しくは言えないらしいけど複雑な事情があるらしい。

 そして彼には想い人がいるらしい。初耳ですわ。


『そんな……』


 呟いた声が、誰かと被った気がした。



★~★~★~★~★~★~★~★~★~★


 野次馬が多くなって美紡子と名乗った女性は帰って行った。

 去り際、「悪かったわね」とまるで捨て台詞のように言い残して。


 ルミフィスティアがフラフラと立ち上がり


「結芽……身体、傷つけちゃってごめんね」


 と謝られた。


 フッと意識が交代した。

 こんな事になって学校に行くどころではなくなった。


 家に戻って部屋に走ると鍵を閉めて胸の中のルミに問いかけた。


『ルミフィスティア、さっきの……想いを伝えないってどういう事!?』


『そういう事よ』


 彼女は詳しく話す気はないらしかったが、私は思い至った。


『私の為に遠慮してる!?』


 彼女は私がアークを好きな事を知っている。けど、この想いが叶えばルミフィスティアの想い……ジーラへの恋が叶わないという事だ。私はやっと気付いて自分の恋にばかり思い馳せて浮かれていた己を恥じた。

 彼女は……自分の恋より私の恋が叶う事を望んでくれたのだ。その事実が私の心に深く突き刺さって、嬉しいけどとても悲しくて泣いてしまった。


『結芽……泣かないで。いいのよ。またこうやってジーラ様と再会できただけで私はとても幸せなの』


 嘘だ。彼女は嘘をついてる。

 本当の願いを心の奥底に押し込めて無理に笑っているみたいに感じた。


『こんなんで……あなたが我慢して、もしアークと上手くいっても私は絶対に幸せになれない。絶対後悔する』


『いいえ。気持ちを伝えない方が絶対後悔するわよ、結芽。言えるうちに……生きているうちに絶対に伝えて両想いになって』


 彼女の家族のイメージが浮かぶ。死んでしまった家族にいっぱい伝えたい事があったのだろう。でもそれなら。


『それなら、あなたも諦めないで。ルミフィスティア。あなたとジーラも両想いになってくれなきゃ私が幸せになれないじゃない! 私が一生後悔するから、ちゃんと言うのよ!』



読んで頂きありがとうございます。

もしよければ下の「☆☆☆☆☆」から評価・応援して頂けると励みになります。ブックマークもとても嬉しいのでどうかよろしくお願いします……!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ