光を抱く闇②
食事テーブルに椅子を二つ追加して囲うように六人座って食べる。
夕食後の片付けで私と結芽、二人して皿を洗っている時。狭くなったが賑やかで楽しい、と結芽は言う。
屈託なく笑う様子に一高への警戒心が微塵もない事を知り内心焦りのようなものを覚えた。
肩の少し上で切り揃えられた黒髪、黒の澄んだ瞳、白い肌。嬉しそうに話す少しぽってりした唇。
ふと、あの時歩道橋から見ていた二人を思い出した。ルミフィスティアに意識を渡した結芽が、もうほとんど死んでしまった一高に唇を寄せているシーン。
バリン。
次に洗おうと思い手に持っていたコップが突然割れて、怪我をして血が溢れた。
「っ……! アーク、大丈夫?!」
結芽が目を見開き、慌てて手を心配された。
「……?」
自分が力を入れた為割れたんだと理解するまでに時間がかかった。
「おま……何でもできそうなくせに、意外とドジなんだな」
一高に言われたが自分の思考に集中していて何も言い返す事ができない。
結芽に手当てされ包帯を巻かれてもまだボーッとしていた。
あの時……あの駅前でルミフィスティアがジーラに『エナジーチャージ』するだろう事は予測していた。
口付けした彼女を見て胸に「何か違う」という思いが過ぎったが、その時の事態を収める為に呑み込んでいた引っかかり。
あの場面を思い出した時何だか胸がムカムカし、一高に彼女を取られるかもしれないと考えただけで居ても立ってもいられない焦りを感じ、彼女が楽しそうに笑いながら彼と喋っているのを見ているだけなのにもやもやする。
十万年以上存在する者の知識でとっくにその感情の正体に気付いてはいたが、まさか自分の身に起こるとは思ってもいなかったので初めての衝動に戸惑っている。
一高と結芽が目の前で私が結構ドジなエピソード話で盛り上がっている。
彼女の微笑む先はいつも自分であってほしい。そう考えてしまって愕然とする。結芽の事を考えていない自分の気持ちの押し付けではないか。
この気持ちは胸の内に閉じ込めておいた方がいいのかもしれない。
自分は選ばれる事はないと分かっている。
ルミフィスティアを大切に想っているジーラは結芽の魂も大切にしてくれるだろう。
知らない間に奥歯を強く噛み締めていた。
堪えきれず二人のやり取りを見ないように目を伏せた。
あの未来の満月の日、結芽に偽りのない自分の気持ちを伝えた。
彼女が泣いてしまって、どうしたらいいか分からず抱きしめた。
あの涙の真意を怖くて聞けないままだったが彼女の想い人が一高だったのなら説明がつく。私を傷付けまいと言葉にできず泣いてしまったのだろう。
そう思ったら自分が小さくなって消えてしまうような、奈落の暗闇に突き落とされたような気持ちになった。
私の、たった一人の人。
けれど未来の事を考えれば自分では彼女にとって相応しくないとも理解しているので、ジーラがいてくれた事さえこの運命に感謝しなければならないだろうという思考に辿り着く。
彼以上の適任者はいないだろう。
自我はあっても所詮自分は人間ではない。
もしも自分を好きになってもらえたとしても幾つも大きな壁がある。
これ以上、近付いてはいけない。
傷付けてまた……泣かせてしまうから。
彼女は私の昏い世界に灯った、ただ一つの光。
満月の日に見た、まるで魂から溢れた光を纏うようにキラキラした彼女を、この胸に抱きしめた感覚を、一生……永遠に忘れられないだろうと苦笑した。
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