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新世界に月は歌う ※現在改稿中です。  作者: 猫都299
【1】新世界に月は歌う
3/151

3 彷徨う者<3>(※視点【結芽】)

※視点【結芽】




 結論から言うと。

 誰もいないし変わったところはなかった。


 少し離れた森の茂みが『ガサ』と音を立てただけだった。


 いやいやいやいや。


 この状況で……。

 絶対、何かいるよね。


 私以外に、この音のない世界で動くもの。

 かなり怖くなってきた。


「……っ」


 音がした茂みを気にしながら後退った。元いた場所とは反対の方向へ進んだ。早足になる。広場の下に石段がある。

 思わず逃げ出してしまった。


 石造りの階段は古めかしく所々に草が生えていた。裸足な上、慣れない服装だった為か……動く時に違和感がある気がした。


 長い階段の一番下は石畳の道になっていて道を隔てた先には岩場があった。更に奥にはエメラルドグリーン色の水面が広がっている。本当に鮮やかで波もなく水面は鏡のように凪いでいた。


 岩の上から水面を覗き込んだ。水面に映った自分が、自分の筈の顔が見た事もないくらい美しくて愛らしい日本人離れした女性のものになっていた。ペタペタと顔を触って確認もした。先程までいた廃墟で金色の髪を見てしまった時から若干……違う人間になっている説を頭の中で展開予想していたにも拘らず叫んでしまった。


「嘘でしょ!」


 光を優しくふるったような淡い色合いの髪。睫毛は長くふっさふさ。女の子でも虜にしてしまいそうな美貌。


「あー……、これ絶対夢だわ」


 独り言ちる。状況が更に解らなくなり空を仰いだ。電線もビルもない。鳥も飛んでない。静寂に包まれた見知らぬ景色に呆然としていた。



 ところで。


 この碧色をした水は海水なのかな? それとも……?

 疑問が浮かび舐めてみる事にした。


 見たところ碧色だが透明度は高く底の岩まではっきり見える。魚は一匹もいない。


 手を出しかけた時、不意に視界が陰った。

 右手首を掴まれていた。誰かに。


 心底驚いて顔を上げた。掴んできた相手を見開いた目に映した。


 最初に目を奪われたのは腰の辺りまである真っ直ぐな赤茶色の髪だった。

 詰め襟の服は見たことのないデザインの民族衣装のような……それでいて未来的な青っぽいもので、すらっとした長身の彼に恐ろしく似合っている。


 水面へ伸ばしていた手を引かれた。導かれるまま立ち上がる。驚きで言葉が出てこない。眼前の青年が徐に口を開いた。


「ガーーーピーーー」


 彼が発したのは言葉ではなかった。機械音のようなノイズに交じって小さく「周波数を合わせました」と説明めいた音声が聞こえた。


「そこは、危険です」


 青年は無表情のまま淡々と告げてきた。さっき小さく聴こえた音声よりやや低い、落ち着いた印象の声だと思った。


「……何が、危険なの?」


 青年の異質さに気を取られ、半ば呆然としながら質問した。彼はすぐに答えてくれた。


「酸の濃度が高いです。人間の骨は三十秒程で溶けます」


 ぎょっとしてもう一度碧の水面を振り返る。無害そうな綺麗な色に騙されるところだった!

 よ、よかった触ってなくて!


「ありがとう……、あの、もう離しても大丈夫ですよ?」


 また水(?)に触ろうとすると思っているのか、手は掴まれたままだった。


「承諾しました」


 彼の手がふっと離れて、私は自分の手首をさすった。

 この人、日本語喋ってくれてよかったけど何か変だよね、使い方。


 整った顔立ちに通常なら見つめられてときめいたかもしれない。

 だが。この視線。


「あなたね! さっき山の茂みにいたのは!」


 あの時感じた視線のようなものは、きっとこの人だ。


 足音もさせず近寄って来た身のこなし。階段を下りて来る時も多分どこかから見張っていたのだろう。

 さしずめ、今の私は絶対的強者に射すくめられた小動物状態。驚きで声は出たが震えて固まって、彼が応えるのを待っている。


「質問の内容と現状、履歴を照合、任務に及ぼす影響を推定」


 小さくアナウンスが零れ……。


「はい」


 ……ロボか何かなのか? この人。


 シンプルに疑惑は深まった。

 じーっと表情の無い顔を見つめる。

 ???

 会ったことないのに、けどどこかで見たような気がした。

 思い出せない。

 相手もこっちを見ている。


 わ、わ、何か恥ずかしい。


 目を逸らして酸の水面を眺めた。

 せっかく綺麗なのに何だか悲しい。


 自然に歌が零れた。

 初めて聞く旋律で自分が歌っているのだと気づいて驚きはしたが、歌うのを止めなかった。歌詞も全然知らない。むしろ日本語でもない。


 悲しみを癒したい。


 何故そう思ったのか分からないが無性に泣き出したくなった。


 歌い終わる頃少し気分が回復して隣の赤茶の髪の青年の様子を窺った。

 青年も水面を黙って見つめていた。

 何を考えているのか読み取れない表情。

 それとも本当に何も考えていないのか……(ロボ説濃厚)。

 いやいやいやいや。

 こんな人間そっくりなロボがいてたまるか!


 空が朱く染まってきた。

 夕方だろうか?

 そう考えていた時に頭に直接響く声がした。


『エナジーチャージします』


 一瞬、思考に栄養ドリンクが過ったが、それどころではない事態になった。身体が……変だ。

 胸の奥が熱くなって……腕とか……体から淡い輝きが溢れ出した。


「え、ちょ、え? えっ」


 私……どうなっちゃったの??!


追記2024.11.23

タイトルと後書きを変更しました。「おう」を「うと」、「足は自然と広場の下の石段へ向かって早足になった」を「早足になる。広場の下に石段がある」、「荒れ果てた石段は草がすごかったけど、なんとか下りきった」を「石造りの階段は古めかしく所々に草が生えていた。裸足な上、慣れない服装だった為か……動く時に違和感がある気がした」、「石畳の道沿いに辿り着いた海(?)は本当に鮮やかで波もなく水面は鏡のように凪いでいた」を「長い階段の一番下は石畳の道になっていて道を隔てた先には岩場があった。更に奥にはエメラルドグリーン色の水面が広がっている。本当に鮮やかで波もなく水面は鏡のように凪いでいた」、「美しい」を「美しくて」、「いるので、」を「いた。」、「こと」を「事」、「岩場から覗き込んで」を「岩の上から水面を覗き込んだ。」、「んだけど?」を「。」、「でしょ」を「よね」に修正しました。改行を削除しました。「音がした茂みを気にしながら後退った。元いた場所とは反対の方向へ進んだ。」「思わず逃げ出してしまった。」「ペタペタと顔を触って確認もした。金色の髪を見てしまった時から若干……」「い」「叫んでしまった。」を追加しました。「逃げる当てはなかったが心に引っかかっていた、惹きつけられるような碧の海(仮)の方へ行ってみることにした。」「筈の」「目を千切れんばかりに見開き後ろに仰け反った。」「 叫んだ。」「もう半泣きだよ」を削除しました。改行を追加しました。

「 それともテレビか何かの手の込んだドッキリ? ありえなくもないかもしれない。」を削除しました。「独り言ちる。」「静寂に包まれた景色を呆然と眺めていた。」を追加しました。改行を削除しました。

「金の」を「淡い色合いの」、「この碧の海(仮)はしょっぱいのだろうかという疑問が私の中で持ち上がり、舐めてみようかなと思った」を「この碧色をした水は海水なのかな? それとも……? 疑問が浮かび舐めてみる事にした」、「右手首が掴まれていた。 誰に?」を「右手首を掴まれていた。誰かに。」に修正しました。「先程までいた廃墟で」「心底驚いて顔を上げた。掴んできた相手を見開いた目に映した。」を追加しました。改行を変更しました。

「、」を削除しました。「静寂に包まれた景色を呆然と眺めていた」を「静寂に包まれた見知らぬ景色に呆然としていた」に修正しました。


追記2024.11.27

「赤茶色の髪は長く腰の辺りまでのストレート」を「最初に目を奪われたのは腰の辺りまである真っ直ぐな赤茶色の髪だった」に修正、「 私の隣で腕を掴んでいたのは見たことのない人物だった。」「と思った」を削除、「恐ろしく」「……」を追加、改行を変更しました。

「立ち上がらせられながらそこまで観察して、しかし驚きで何も言えずにいると青年が口を開いた」を「水面へ伸ばしていた手を引かれた。導かれるまま立ち上がる。驚きで言葉が出てこない。眼前の青年が徐に口を開いた」に修正しました。

「口から発せられたノイズ混じりの機械音に固まって動けないでいると、小さく「周波数を合わせました」とアナウンスのような声が聞こえた」を「彼が発したのは言葉ではなかった。機械音のようなノイズに交じって小さく「周波数を合わせました」と説明めいた音声が聞こえた」、「無表情の青年は淡々と告げた」を「青年は無表情のまま淡々と告げてきた。さっき小さく聴こえた音声よりやや低い、落ち着いた印象の声だと思った」に修正しました。

「やっとの事で質問すると無表情のまま私を見下ろして答えた」を「青年の異質さに気を取られ、半ば呆然としながら質問した。彼はすぐに答えてくれた」に修正しました。

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