訪問者
「禁域に入ってはダメよ」
小さい頃から母に口を酸っぱくして言われ続けた言葉。そこに何があるのか、幼い私はずっと知りたがっていたが遂に知ることはなかった。
そう、今日までは。
大昔、神の怒りに触れ神罰が下ったとされる地……「神域」、「禁域」とも呼ばれる。
神様が住まうとされる高い山。その山からこちら側の地を隔てるように深い谷になっており、谷から上までの森は人々から「死の森」と怖れられていた。
そんな場所が近くにあるすごく田舎の村で育った私、エイジャは村に一軒だけある食堂で耳を疑う話を聞いてしまった。
「神域に入るぅ~~~? 絶対に止めとけ!」
私がテーブルに着いてお昼ご飯を食べていると、後方で店のおっちゃんが怒鳴った。
顔も体も厳ついおっちゃんだが、声にも迫力がある。昔、冒険者やってただけある。
「多分……俺の探してるものが、そこにあるんだ……」
聞いた事のない、澄んだように凛々しい男性の声。
ここの村人じゃない人は珍しかったので、思わずこっそり振り返って見た。
薄茶色の短髪、黒っぽいタイトな冒険者風の服装。背も私の頭一個分くらい高いと思う。スラッと細いし。
その出立ちから村人にない洗練された雰囲気が醸し出されている。ここの村人は大体がもっさりしたイメージだ。
「それで東の都から遥々……ね……。一体何を探してるんだ?」
おっちゃんの疑いの混じった目に、彼は口元に指を当て考えながら
「宝物……かな? この山を越えたら見つかる気がするんだ」
と、ニコッと笑った。
おっちゃんは自分の額に手を当て、天を仰いでハァ~~~と長めのため息をついた。
冒険者の青年は私の視線に気づいたのか、こちらにもニコッと愛想をふり撒く。整った人懐こい顔の彼は、さぞかしモテるんだろうなぁと思った。まだ十代後半くらいの年齢に見える。
私は長年(……と言っても六歳からの見習い期間も合わせて十年くらい)この村で狩人を生業にしているが……何か寒気のようなものを感じた。大物の獲物と対峙した時のような……いいえ。逆にこちらの生命が危険な時に感じる緊張感……。
無言で見つめ合う私と彼。
そして気づいてしまった。黙って微笑んでいる青年の瞳の奥が、全然笑ってない事に。
ぶるっ。
その恐ろしげな佇まいに、私は身を震わせて無理やり視線を外した。
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