表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
29/151

訪問者


「禁域に入ってはダメよ」


 小さい頃から母に口を酸っぱくして言われ続けた言葉。そこに何があるのか、幼い私はずっと知りたがっていたが遂に知ることはなかった。

 そう、今日までは。


 大昔、神の怒りに触れ神罰が下ったとされる地……「神域」、「禁域」とも呼ばれる。

 神様が住まうとされる高い山。その山からこちら側の地を隔てるように深い谷になっており、谷から上までの森は人々から「死の森」と怖れられていた。


 そんな場所が近くにあるすごく田舎の村で育った私、エイジャは村に一軒だけある食堂で耳を疑う話を聞いてしまった。


「神域に入るぅ~~~? 絶対に止めとけ!」


 私がテーブルに着いてお昼ご飯を食べていると、後方で店のおっちゃんが怒鳴った。

 顔も体も厳ついおっちゃんだが、声にも迫力がある。昔、冒険者やってただけある。


「多分……俺の探してるものが、そこにあるんだ……」


 聞いた事のない、澄んだように凛々しい男性の声。

 ここの村人じゃない人は珍しかったので、思わずこっそり振り返って見た。

 薄茶色の短髪、黒っぽいタイトな冒険者風の服装。背も私の頭一個分くらい高いと思う。スラッと細いし。

 その出立ちから村人にない洗練された雰囲気が醸し出されている。ここの村人は大体がもっさりしたイメージだ。


「それで東の都から遥々……ね……。一体何を探してるんだ?」


 おっちゃんの疑いの混じった目に、彼は口元に指を当て考えながら


「宝物……かな? この山を越えたら見つかる気がするんだ」


 と、ニコッと笑った。

 おっちゃんは自分の額に手を当て、天を仰いでハァ~~~と長めのため息をついた。


 冒険者の青年は私の視線に気づいたのか、こちらにもニコッと愛想をふり撒く。整った人懐こい顔の彼は、さぞかしモテるんだろうなぁと思った。まだ十代後半くらいの年齢に見える。


 私は長年(……と言っても六歳からの見習い期間も合わせて十年くらい)この村で狩人を生業にしているが……何か寒気のようなものを感じた。大物の獲物と対峙した時のような……いいえ。逆にこちらの生命いのちが危険な時に感じる緊張感……。


 無言で見つめ合う私と彼。

 そして気づいてしまった。黙って微笑んでいる青年の瞳の奥が、全然笑ってない事に。


 ぶるっ。


 その恐ろしげな佇まいに、私は身を震わせて無理やり視線を外した。


読んで頂きありがとうございます。

もしよければ下の「☆☆☆☆☆」から評価・応援して頂けると励みになります。ブックマークもとても嬉しいのでどうかよろしくお願いします……!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ