新世界の月
十万年後の世界ではアークとほとんど一緒にいる。で、分からない事を質問攻めしてる。相変わらず。
「ねえ私がここで初めて目覚めた時、着てた服だけど。他の骸骨の服は朽ちてボロボロだったのに何で私のはキレイなままだったの?」
「永時睡眠ベッド『うらしま君』内に服等の劣化を防ぐ微生物を配合した気体を注入する事によって約九十九パーセントの劣化防止効果が実証されています」
「あの棺、本当はそういう名前だったんだ……」
夢が壊されたような顔をしてみる。
五万年前の文明の秘宝にそんな名前が付けられているのも驚きだ。
クスクス笑っていると、つられたようにアークも楽しげに微笑んでくれた。今では彼が笑ってくれるのも珍しくなくなった。
「じゃあ、この辺りに風が吹いていないのは?」
「それは……」
話してるうちに夜になった。
「話し過ぎちゃったね」
酸の海辺の石畳を歩く。月が昇る。今宵は満月だ。
ルミフィスティアに教えてもらった『七つの島国』という歌を口ずさむ。
あの子、こちらにいる時はあんまり顔出さないけど何でだろう?
「次はいつこちらへ来てくれますか?」
横を歩くアークが背を屈めて私の顔を覗き込む。肩で緩く結んだ赤茶の髪が揺れる。
「……もしかして、寂しいの?」
からかってみる。
「……はい」
「え」
動揺したのは私の方だった。
「自我のない時は平気でした。何万年でも独りで大丈夫でした。でも今は……」
月が明るい。幾つもの文明が滅んだ世界で。まだ、輝くものがあった。
「知っていましたか? 太陽の見えない世界で月は人々の拠り所だった事。あなたは私の月です。あの満月の日から」
アークは私の手を取り、私はじっと見つめられた。知らない間に零れた涙を、指先で掬い取られた。
大きな月影を背に、二つの人影がゆっくりと重なった。
読んで頂きありがとうございます。
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28.新世界の月
「新世界に月は歌う」
お読み頂きありがとうございました。
とりあえず、この話が最終話です。
ちなみにサブタイトルはそれぞれ、主要登場人物を思い浮かべて付けてみました。
〜〜〜〜〜
上記、サブタイトルじゃなくて一話ごとのタイトルですね。寝不足で勘違いしていました。失礼しました。
この「新世界に月は歌う」、一度完結としてみたのですが途中の話から最終話まで割と連続でアップしてしまい、ちょうどその途中の頃ブックマークして下さった方にとってすぐに終わってしまったなぁと気になっていました。
ブックマーク登録や評価をして下さった方、ここまで読んで下さった方……かなり励みになっていました。
何か感謝を伝えたくて昨日、まる一日かけて続きのあらすじをバリバリ書きました。
またマイペースに投稿していくと思いますが、お付き合い頂ければ有り難き幸せです。(2021.12.1追記)
(前書きを再掲載しました。2022.2.12)