源③
「嘘でしょ、嘘でしょ、嘘でしょう!」
私は走っていた方向を九十度変え、そのまま走っていれば数メートル先の道路の亀裂に落ちるのを何とか回避した。
この道が通れないとなると……あんまり通りたくはないが駅の地下を抜けるしかない。あんな地下でこんな亀裂があったらと思うと足が竦みそうになるが、もうそこしか思いつかない。
意を決して地下へ下る階段を駆け下りる。
地下の人々も地上の通行人と同様、混乱していた。怒号や悲鳴が飛び交う中やっと目的の階段への表示を発見した。
「あった!」
カフェの前を走っていた時、心がざわっとして妙に気になったガラス張りの店内を見た。ガラガラの店内で一人こちら向きに座る三十代くらいのサラリーマン風の男の人が見えて心音が大きくなった。
「?」
私はその意味が分からず時間もなかったので目的の階段へと足を止めなかった。そのまま駆け上がって、たまらず息を少し整えて見回した。
……いた! 大通りの歩道橋の上から下の様子を見物でもするように余裕を浮かべて笑う少年(私と同じ歳くらい?)と外套で身を包んだフードを目深に被った人物。
私は走って行き彼らの視界に入った。道路は寸断されて既に普段の機能を果たしていなかったので車に轢かれるといったこともなかった。
見上げた先に彼と目が合った。何も映してないような、でもしっかり自分を持っているような不思議な瞳。
「アークっ」
「な……!?」
彼の名を呼ぶとその隣にいた少年が驚愕したような声を上げた。
「何故その名称を知っている!? お前、何者だっ!?」
私は少年を無視して言葉を続けた。
「こんな事、止めて! 何であなたがこんな事……?!」
「おいコラ、無視すんな……」
「あなたがアークにこんな事させてるの……?!」
少年の抗議の声に被せて叫ぶと、キッ! と睨んだ。
「だったら、どうだって言うんだよ」
不機嫌そうに少年は右手の小指で耳をほじりながら目を細めた。見下ろしながら
「どーせ、あんたはここで死ぬんだから知る必要ないだろ?」
と、冷めた目で笑った。
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