源②
居間で父と母がテレビを見ている。父は新聞を読みながら。母は朝食の目玉焼きを乗せた皿をテーブルの上に置きながら。
「最近、地震が多くて怖いわねぇ」
母が呟く。
「あ、結芽ちゃん。早く食べましょ」
ニコニコと母が私にも目玉焼きの皿を置いてくれた。私はじーんとして神妙にテーブルに着いた。テレビではまだ地震のニュースが続いている。
私はアークの事を思い出さずにはいられなかった。
(うーん、夢ではせっかく名前を聞けたところだったのに。面白くなりそうなところで目が覚めた。最初は悪夢だったけど彼が現れてくれたおかげで悪くなくなった)
少し寂しく感じながらニュースを眺めていた目に速報の文字が飛び込んだ。
「ヤダ。これ駅前じゃない」
母が口に手を当てて顔をしかめた。
ひどく揺れているカメラの視界。行き交う人々が次々に倒れていく。
その中心に二つの人影。彼らが進む度に近くを歩いていた人々が倒れ、周囲はパニックと化していた。
無差別殺人、テロの可能性……見出しに物騒な言葉が並ぶ。
映っている二人のうちフードを被った一人がこちらを見た。
私を見たんだと何故かその時思った。
背の低い方の人がフードの人を呼び寄せ何か耳打ちしている。フードの人は頷き、右手をかざし……。
その時、風が彼の被っていたフードをさらった。フードからこぼれた髪は、鮮やかに赤く……。
ガタン!
私はテレビを見たまま立ち上がった。
「どうしたの? 結芽ちゃ……」
母が尋ねている途中、強い揺れが我が家を襲った。
「地震!?」
弟が居間に飛び込んできた。
「母さん火は止めたか? 外に避難するんだ! 頭を守れ!」
いつも無口な父が指示するとおり頭を守りながら外へ出た。幸い揺れは収まって瓦とかも飛んでこない。
築五十年程の我が家はまだ何とか無事だった。けど、これからも無事とは限らない。
口をきゅっと引き結んだ。
「ごめん……私、行くとこあるから出かけるね」
家族全員に、こんな時に何言ってるんだという目で見られた。
「ダメ……」
父が言いかけたが、すぐさま
「ちゃんと夕食までには帰るから!」
ゴメン! と手を合わせたポーズで走り出す。父は「ダメだ」と言いたかったのだろう。けど、ここは譲れない。
おっと。
一旦戻って家の中で靴を履く。
呆然とする家族の脇を走り去る。
「行って来まーす!」
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