助け舟③
山の上のあの骸骨たちのいる部屋へ戻るのかと思ったら気が重かったが、他に休める場所も知らなかったし青年と二人して昼間下りて来た階段を上っている。
大きな月が出ている(私が知っている月より十倍くらい大きく見えるんだけど?)といっても階段の両側は森だったので、さっきいた石畳の海辺より薄暗い。
下って来る時は無我夢中であっと言う間な気がしたけど暗いせいもあって上るのは時間が倍くらいかかったように思う。
上っている途中、後ろからついて来る青年の姿を何度か確認した。だって余りに足音が小さいから本当について来てるのか心配になって。途中でどこかへ消えられでもしたら……と思うとゾッとする。
前を歩いてほしかったがさっき躓き転びそうになった私の事を心配してか、首を横に振って拒否された。
彼の伏せ目がちの顔を盗み見ながら『そう簡単にこけるわけないじゃん』と心の中で呟いていたら、よそ見して歩いていたせいで木の根に足を取られた。
「うわっ! またこける!」
思わず目を瞑ると、お腹の辺りに感触があり後ろに引っ張られ支えられた。
……また助けられた……。
直前に『こけるわけないじゃん』とか考えてたくせにすぐに転ぶところだった。赤面する。私って……。
微かに背中に青年の体温を感じる。人間じゃないって事らしいけど不思議。説明されて納得したつもりでも、いまいちピンとこなかった。
もう大丈夫だと言うようにお腹に回された青年の手を退けながら、
「ありがと。えっと……」
口ごもった。
微かな月の光に照らされた青白い青年の顔を見た。青年は目を伏せていて視線は合ってない。あれ? と思ったけど呼びかけようとして言葉が出てこない。何て呼べばいいの?
今まで『あなた』って言ってたけど、いい加減名前を呼んでみたいという欲が出てきた。
いきなり『あなたの名前を教えて』って聞いたら『管理者キー』になるだろうから……。
それに相手に失礼だし……(今まで相手の都合も聞かずに質問したり連れ回したりしてたけど今更だけど彼への配慮が足りなかったかもと反省した)私から名乗らなくちゃね。
「私は逢坂結芽。新浜高校一年生。血液型はO型よ。よかったら、あなたの名前も教えてくれる?」
彼と目が合った。
「知っています。『あなた』に聞きましたから。私の名前は……名前と言うより名称ですが、アークA‐02(ゼロツー)と呼ばれていました」
ん? 私この人に名乗った事あったっけ? と不可解さを感じたが、すんなり名前を教えてもらえたのでそれは一旦置いておく事にした。
「アークかぁ。あなたに似合ってて良い名前ね」
何となく彼の赤茶髪の雰囲気と合ってる気がしてそう言ったのだが。
「何か由来とかあるの?」
そこまで聞いてしまった。
私の中ではいつか英語の辞書でみた『方舟』を思い浮かべたが、全然違った。
「開発された当時、私の能力によって地盤変動を起こせる事に気づいた担当者が地震から取って名付けました」
「……そうなのね」
思ったよりハードな名前の由来と地震も起こせるんだぁという彼の能力の途方もなさに、階段を上りきるまでそれ以上何も話題を振ることができず二人とも無言で歩いた。
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