助け舟②
笑ったと言っても声は出さず、口の端が上がった……それだけだったが、衝撃をくらったように私は目を見開いたまま息を呑んだ。
その表情はどのような笑いだったかと考えれば、苦笑に近いかもしれない。
「いいえ。……人間ではありません」
既に無表情で、見間違ったかな? と自分の目を疑う。
それはとても稀な事のように思えた。
私の困惑した表情を『人間じゃない』事に対する理解不足と捉えたのか再び説明が始まった。
「先程もお伝えしたのですが私の体は人間を模して造られています。それは外見だけではなく、内部の構造もできうる限り近く造られている筈です。内臓、器官、神経……ただ、もちろん人間と明らかに違う部分もあります。エネルギー摂取や排泄の方法を選択できますし人間にない機能も備わっています。そして何より違うのが材質です」
「材質?」
「見て下さい」
背中に添えられていた手が解ける感覚。彼は自身の右手を私の前に差し出した。
私は彼の手をまじまじと見つめた。
「手がどうかしたの?」
「人間の手に見えますか?」
もう一度、慎重に手を観察する。何ならと思って、つついたり裏返したりしたけど私より大きな男の人の手にしか見えない。
「見えるよ」
「皮膚や臓器、髪に至るまで特殊な人工の物質でできています。非常に人間に似せていますが体内に構築されたエネルギー生成・循環を司るシステム……通称Eサイクルにより耐久性能も大幅に向上し自らの細胞の更新・管理も自動で行われます。これまでに十万年以上の稼働実績があります」
通販番組の売り文句を連想しつつ、小さく頷いて話の先を聞こうとした。
「……ですから、私は」
「あなたは誰なの?」
「秘匿事項です。管理者キーが必要です」
彼の話を遮ってスタンダードに断られる質問をぶつけた。
何となく、その先は言わせちゃいけない気がした。人間でないと言う時、彼の口は重たそうだった。
彼の手を放し数歩後ろへ退がった。
光に振り返ると、大きな満月。どおりですごく明るいと思った。
また月を背にして彼に向き直り、そして宣言した。
「あなたが人間でも人間じゃなくても、どっちでも構わないよ」
悪戯っぽく笑い、
「私を助けてくれるならね」
ウインクして見せた。
これは私の本心であり、切実な願いだ。
切実な!!
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