識者
「もうっ! いいからそこにある木のとこまで行って、向こう側向いてて!」
三十メートルくらい離れた所に一本だけ生えてる木を指差し、有無を言わせない勢いで背中を押しやる。
もう、早くしないとエライことになる!
こんな外の、誰が見てるかも分からない場所で用を足すなんて恥ずかしくて顔から火を吹きそうだったが背に腹は代えられない。漏らして服を汚したら大変な事になる。
幸いな事に着ている服のスカート部分が広くて長い!! だから隠しながらできるかもしれない。
そこまで考えてはた、と大事な事に思い至った。
……トイレットペーパーーーーー!!!
青年は明らかに持ってなさそうだったし、もう木のとこまで行ってる。律儀に後ろを向いて木の横に待機していた。一応持ってないか聞いておけばよかった!!
他に代用できそうな物……。
近くに生えていた草に葉が三枚だけ付いていたが、さっきの酸の水の事もある。もしかしたらこれで拭いてかぶれる事もあるかもしれない。慎重にならなければ……。
他に代用できそうな物……。
これしかないか……。
私は心の中で高そうだけどごめんなさいと呟きながらスカートの裾に手をかけた。
「お待たせ。もういいよ」
スッキリした面持ちで青年の隣に立つと青年は目ざとく端が不自然に破り取られたスカートの裾に注目した。
「お願いだから、詳しく聞かないでね」
笑顔で圧をかけると青年は首をこくんと頷いた。
このまま……このまま……トイレと出会わずにずっと外で用を足していたら、いつかミニスカートになってしまう……。
危機感を覚え、トイレ探しをこれからの最重要課題に位置付けた。
石畳とか古めかしい建物(遺跡?)とかはあるから、きっとトイレもどこかにあるはず!! 紙もあってくれ!!!
「ん? そういえば、あなたはいつもトイレどこでしてるの?」
青年は真顔で、
「私には人間で言うところの排泄の必要はありませんので、前回機能テストを行った日より約三百年トイレを使用していません」
と、さらりと宣った。
今この人なんつった?
読んで頂きありがとうございます。
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13.識者
はじめまして。樹みのりと申します。読んで下さってありがとうございます。ブックマークを登録して下さった方がおられて無性に嬉しく、私の他に読んでくれている人がいるんだなぁと実感と意欲が湧きました。PVもとても励みになっています。
今回の話は、彷徨う者④の続きとなります。
(前書きを再掲載しました。2022.2.12)




