西と東の宝⑤
「このじいさんは宰相か……見たことある。ふーん」
自らの顎に手を当てて、死体の顔を検分している。
「じゃあ、この男は……? あーなる程。彼女、許婚がいるって言ってたな。じゃあそいつか」
胸くそ悪さに目を細めて、眉間に皺が寄る。
オレに、王族殺しの罪を着せるつもりか。そして城の者の口封じ。
「舐めた真似してくれるじゃん」
「フン……ここか」
意外にも近くにあったんだな、と呟き頑丈な『開かずの間』の隠し扉に手をかざす。
開けるだけでいいのに気が立っていて、扉ごと砕いてしまった。
『ない』はずの部屋の奥に、見たことのない材質でできた透明な蓋のついた棺が五つ、円を描くように……まるで五角形の角にそれぞれ並べたように配置されていた。
高い天井のステンドグラスを模した窓から星が瞬き、外の火事のせいで暗いはずの室内は朱くほの明るい。オレが扉をぶっ壊したから煙も入ってきた。
「これが……古代文明の秘宝……ね」
棺のうちの一つに手をかける。中ではルミフィスティアが静かに眠っているようだった。死んではいないと直感で解る。
彼女は殺されていなかった。
広間で殺されていたのは全員身代わりだったのだ。
一瞬騙されそうになったがオレが彼女の死に気づかない筈ないんだ。至宝同士、出逢ってしまったから。
恐らく眠り薬でも飲まされ運ばれて来て棺に入れられた……といったところか?
彼女が首謀者だとは考え難い。出逢ったことのある至宝の性質はなんとなく解る。自分の身代わりに他人を犠牲にするタイプではなさそうだったし腹黒さはなかった。むしろ逆すぎて心配になる程だ。
「……っ!」
胸の傷を押さえる。じくじくした痛みは不意に大きく疼き、思わず膝を着いた。
急所は外したが、毒矢だったからタチが悪い。
さっきの広間でルミフィスティアが偽者と気づいた時、油断して遅れを取った。
見つけ出した刺客は瞬殺した。色々聞き出したいこともあったが、もたもたしていたらこっちも焼け死ぬんでね。
近いとはいえ、こちらの棟には火の手は届いていない。
「さっさと、こんな所から出よう」
棺に手を当てる。
「……? どうしてだ! 何故反応しない?」
大抵の古代文明の秘宝は至宝の血族であれば操れる(ルミフィスティア程ではないが西の王族も至宝の血が入っている。至宝は、その中でも一番血が濃い者を指す)。
一つ考えられるのは東の至宝の存在を懸念して西の血族しか操れないように操作した可能性。
オレの黒炎もオレしか使えないようにしてるし、オレが死んだらこいつも死ぬ。
だが、西は知らなかったようだ。
操れはしないが、壊すことはできる。
この黒炎を使って。
この刀も古代の秘宝で、頑丈な秘宝が相手でも対抗できる。
しかし。力を使えば中にいるルミフィスティアも無事ではいられないだろう。
……いいではないか。
東に牙を向けた一族。こうする事は……決まっていた。
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