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5、意図が伝わらない


「ラルフ?」


「……おはよう」


エレノアが女子寮の門を出たところで、壁に凭れて立っていたランドルフと遭遇する。

なぜここにランドルフが、と目を瞬かせるエレノアとは反対に、落ち着いた様子のランドルフから朝の挨拶を受け、エレノアははっと一つの可能性を思いつき、さっと血の気が引いた。


「え、いや、そ、そうか、ああいやごめん、その、怖がらせるつもりは、」


「ラルフ!」


「俺も差し出がましいとは思ったけど、」


「ど、ど、どなたと待ち合わせですか……!?」


「は?」


エレノアの、驚き、疑問、一閃、蒼白、と移り変わる表情から、己の待ち伏せ同然の行動を不審者か何かと誤解させてしまう可能性があったことに今更気づいたランドルフが、慌てて弁明を口にしようとした。

しかしそれは、あくまでランドルフの待ち伏せの目的がエレノアにあると前提で分かっている張本人のランドルフ視点の話であり、そんなこと露も理解していないエレノアは想い人が別の女性と良い仲、それも朝から一緒に登校するような仲であるとの勘違いが暴走する。


「私の幼馴染みのサーシャは実家からの通学ですし、学年のマドンナはもう少し遅い登校のはず……そもそも先輩方はカリキュラムが朝からあるわけではないので遅めの登校になりますし、この時間ということは私と同じ1年生で全342人中寮生170人弱の内のどなたかお1人……!」


「まったく絞れてないな」


突然の恋路のピンチに混乱する頭でそろばんを弾いても、ランドルフの言う通り特定には日が暮れそうである。


「落ち着け、そもそも待ち合わせじゃない。俺が、その……勝手に待っていただけというか」


「な、な、な……!?」


「こ、今度はどうした?」


「わ、私、ラルフへの想いならどんな方にも負けません! で、でも、でもあの、ら、ラルフの幸せのためなら、わた、私は、う、うううっ」


喜んで身を引きます、と宣言するには、突然すぎて心の準備もできていない恋心を捨てられるはずもなく、かといって未練がましく縋りつくような姿も見せたくない複雑な乙女心が邪魔をして、エレノアは涙ながらに唸るだけに留まる。

どうやらさっさと本題に入らないとエレノアがいらん苦悩に苛まれるようだと察したランドルフは、手短に用件を伝えた。


「君は結局何も話さなかったけど、俺といたときは綺麗だった制服が、あの後汚れてただろ。何かトラブルに巻き込まれたなら、1人でいるのは危ないと思って待ってたんだ」


「……え?」


ランドルフの言葉を受け、目尻いっぱいに涙を溜めていたエレノアは呆ける。

彼女の溜まった涙を見て、それが今までの流れから自分に対するものだと分かっているランドルフは何となく気恥ずかしくなり、両手に抱える魔導書を意味もなく持ち直して視線を地面に逃がした。

対するエレノアは、ランドルフが自分を心配して迎えに来てくれたこと、一緒に登校しようとしていること、話してないのにトラブルに遭ったことを真剣に考えてくれたこと、トラブルに遭った事実を裏付ける理由をきちんと言語化できること、他エトセトラに気づいてぶわぁっと恋心に大きな花が咲いた。


「ラルフぅ!」


「いい加減そろそろ学園に向かおう。迎えに来たことで遅刻させる事態になったらシャレにならない」


「分かりました! どこまでもついて行きます!」


「やめろ。冗談に聞こえない」


「私はいつだって本気です!」


「尚更だめだろ……ってエレノア足元、ぉわっ!?」


「きゃあっ!?」


ランドルフに夢中のエレノアの足元の石に気づいたのは互いに遅かったが、蹴躓いたエレノアが、咄嗟に支えようとしたランドルフの左腕にしがみついたことで転倒は防げた。


「すみません、ラルフ」


「いや、今のはエスコートしなきゃならない立場の俺が悪い」


「そんな……はっ! そうですラルフ! 手を繋ぎましょう!」


「清々しいほど思い付きの提案だな……」


ほっと2人で安堵し、互いに非を詫びたところでエレノアが提言すれば、今まさに思いついたのだろう閃きをそのまま口にした様子の素直なエレノアに困惑した。

今なら人通りも少ないし、また転ばれて怪我をされては迎えに来た意味もないし、エレノアも嫌そうな素振りどころか本人から言ってくるくらいだし、と誰に言うでもない手を繋ぐ理由を内心で並べ立てたランドルフは、差し出されたエレノアの白く柔らかい手を取る。


「ふふ、やっぱり私は出会い頭に馬に跨らせる人より、ラルフのように格好良くて物知りで努力家で優しくて温かくて頭が良くて格好良くてそして格好良い男性が好きです! というかラルフが好きです!」


「過大評価がすごい。と言うより後半同じこと繰り返すほど無理しなくて良い」


「無理なんてしてません! 言い足りないくらいですよ? 特に格好良いという形容詞は何百万回と言ってもラルフの格好良さを表すには足りないくらいです」


「君の目に映る俺は一体どうなってるんだ? ……ってちょっと待て。今何て?」


エレノアはいつもランドルフを称える言葉を口にするが、ランドルフ本人としてあまりにも自己像とかけ離れた称賛にどうしても意識がそっちに引っ張られてしまう。

とはいえ、今聞き流してはいけない引っ掛かる部分があったのも事実で。


「特に格好良いという形容詞は何千万回と言ってもラルフの格好良さを表すには足りないくらいです!」


「地味に数を増やすな、あとそこじゃない、もう少し前」


「無理なんてしてません?」


「もう少し前」


「ラルフが好きです!」


「そこでもなくて! ちょうどその前!」


元気良く想いを伝えるエレノアの素直さに、照れが前面に出たランドルフが珍しく声を張る。

そんなランドルフを可愛いと思いながらも口にはせず、えーと、と顎に指を当てて思い返したエレノアはポンと手を打った。


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