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名前も知らない二人

それだけで

作者: 望月かれん

 他人との付き合いなんて面倒なだけだ。

上辺では仲が良さそうに見えても腹の内では何を考えているのか分からない。

もともと他人と話すのは苦手だし、そんな気持ちもあって

最低限のコミュニケーションしか取ってこなかった。


 でも彼女と話してから少しだけ考えが変わった。


 休み時間は教室にいても煩いだけなので図書室に

行くことにした。

図書室は校舎の3階・東側に位置している。

ドアは開けられていて中の様子が見えた。ここからだと生徒はいなさそうだ。

だが図書室というからには先生か委員会の生徒がいる

はずだ。少し複雑な気持ちになったが話さなければいけないという決まりはない。最悪、頭を下げればいい。


 様子を伺いながら中に入る。しんと静まりかえっていて

外の鳥の囀りが聞こえるほどだ。そこそこ生徒がいると考えていたので意外だった。


 入り口近くのカウンターに彼女はいた。広げている本を

見る事に集中していて、僕が来た事には気づいていない

ようだ。


 失礼だとは思ったが何も言わずに本棚へ向かった。足音は立てているので気づかれるだろうと思っていたのに、彼女の

様子は変わっていない。すごい集中力だ。


 適当に1冊を手に取って閲覧席に向かう。隠れる必要はないのだが、カウンターから死角になっている窓際の端の席に

座った。


 しばらく本を読んでいると話し声が聞こえ始めた。本の

返却に来たようだ。相手も女子のようで僕には出せない高めの声が行き交っている。

 相手の女子生徒は返却だけで図書室から出て行ったようだ。内心、本を選びに来て見つかってしまったらどうしようかと

ヒヤヒヤしていた。


 最初に見た時と先程の会話での判断だが、カウンターの

彼女はどこにでもいそうな大人しめの女子というイメージを

受けた。


 

 また少し本を読み進めてから腕時計を見ると休み時間が

終わる5分前だった。チャイムが鳴るまで居てもいいが時間

ギリギリの行動は嫌いなので、本を棚に戻して入り口へ

向かう。

嫌でもカウンターの前を通らなければならないが来た時に

挨拶をしなかった自分を恨むしかない。


 「お疲れ様」


 再び本と向き合っている彼女に声をかけると勢いよく顔を

上げた。僕と目が合うとこれでもかというぐらい目を開く。


 「す、すみません。来ていた事に気づかなくて……。

あ、本を借りますか?」


 「借りて帰る本はないから大丈夫。

あと、気づかなかったからって謝らなくていいよ。

君、集中していたみたいだったから。

それに声をかけなかった僕にも責任はある」


 弁解しても彼女は申し訳なさそうにしていた。深く考え込んてしまうタイプなのだろうか。ただ、とても真面目だという

ことは理解した。仕事だからといえばそうなのだろうが、

本を持っていない相手にまで貸出の有無を聞かないと思う。


 「あ、ありがとうございました……」


 「は?」


 疑問が口をついて出る。どうしてそこでお礼の言葉が出た

のか理解できなかった。いつもより低い声で言ってしまった

ためか、彼女は少し怯えた表情をしている。


 「え、えっと、図書室に来てくれて、ありがとうございます、という意味で……」 


 「……………………」


 「な、なかなか人が……来ないので……また来てもらえたらなと思って……」


 僕の様子を伺いながら慎重に言葉を選んでいるのが伝わってくる。怒っているつもりはないが彼女にはそう見えている

のかもしれない。

 

 「そう……。……どうしてお礼を言われたのかが気になった

だけだから慎重にならなくていいよ」


 「あ、はい……」

 

 彼女が少し頬を緩める。緊張はとけたみたいだ。


 「……じゃあね」


 そう言ってから振り返らずに図書室を後にする。

 まさかこんなにも喋ることになるなんて思っていなかった

ためとても疲れたが、嫌ではなかった。



 彼女に少し親近感を覚えた。話すのは得意ではないようだし

なにより一歩距離を置いているように見えた。

初対面だったからあのような感じになっていたとしても好感は持てる。


 この時から彼女の事を気にし始めていた。

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