新婚初夜2
ここの宿屋がヘローワークのミッチー(黒いネズミ)の紹介だったことを思い出した俺は、とりあえず懐にあった100万円札の束をスッと宿屋のおやじに見せた。
「おカネならある。
四の五の言わずにさっさと泊まらせてくれ!」
それを見た親父は、人が変わったようにニッコリと表情を変えて、重ねた掌をモミモミさせながら答えてきた。
「これは、失礼いたしました。
お部屋はいくつご用意させましょうか?」
「気持ち悪いくらいに、えらく素直になったな。
じゃあ、俺達は3人だから、3部屋でお願いするよ」
すると、これに女神が異論を唱える。
「ダーリン、ちょっと待ってください。
わたし達は、もう夫婦なんですよ。
それから、今はおカネがたまたま入っただけで、これから安定した収入もあるか分かりません。
ここはおカネを倹約する意味でも、3部屋ではなくて2部屋にするべきです」
女神は、少し怒ったような素振りを見せた。
「ええっ?! それってまさか……」
「はい。わたし達は同じ部屋に泊まりましょう」
そう言うとニッコリと可愛い笑顔を見せてくれた女神。
「じゃ、じゃあ、2部屋でお願いします」
顔を真っ赤にした俺は宿屋のおやじにそう頼むと、女神が付け足した。
「シングルベットがひとつと、ダブルがひとつです」
だ、ダブルベッドって?! なっ、なんて、大胆な……。
ドックン、ドックン、ドックン、ドックン
俺の心臓の鼓動が耳に聴こえた。
まだ、手をつないだりキッスもしてないのに、いきなり本番なんて俺には出来るのだろうか?
それこそ朝、起きて10秒以内でいきなりステーキ500gを食べ始めるようなものではないだろうか?
いや、公園で小学生とペットボトルミサイルで遊んでたら、いきなりNASAから火星移住計画のプロジェクトリーダーに抜てきされたようなものではないだろうか?
さらに、その火星で進化したゴキブリ達と戦う羽目になり死に物狂いのサバイバルゲームになっちゃうのではないだろうか?
そして、何とか地球に帰りそれを漫画に描いたらスーパーヒットでアニメ化して一躍、時の人になっちゃうかも?
でも、悪ノリしてスタジオ・ジプリで映画化したら作風が頭がおかしいと不評になり、大失敗で一文無しに。そして、その埋め合わせる為に、闇のカジノに手を出して莫大な借金までしちゃったり。
それでも、「ざわざわ・ざわざわ」と独り言を言いながら大きな船(船名:エスポワール)に乗って一発逆転の大勝負に出ちゃうかも?
俺の中で様々な思考が巡った。(←何のこっちゃねん by作者)
そんな俺の服のすそをツンツンと引っ張る女神。
俺がそれに気づくと、可愛らしい顔を少し赤らめて恥ずかしそうだが笑顔を作り、宿屋の主人から受け取った部屋のカギ、ひとつを俺に渡してきた。
「だ、大丈夫ですか?」
恥ずかしいのを隠す為か女神は、少し俯きながらチラチラと俺の顔を見上げながら聞く。
「ふ、ふぁいっ! 俺、がっ、頑張ります!」
一時間後
俺は、シングルベッドでひとり泣いていた。
「わたし達が同じ部屋にって言ったのは、オリビアのことだったのね(涙)」




