馬の娘やってる人、すまぬ
俺と女神は、へローワーク(ギルド)を出た後、少し用事を片してからオリビアが待つ馬車に戻って来た。
荷台後部のホロを上げて中を見ると、体躯座りで半裸のオリビアが涙目で顔を上げた。
「遅いぞ、バカ」
裸でひとり、薄暗い荷台の中に居たのはさすがに寂しくなってしまったのだろう。
「すまん、ギルド探しの他にもいろいろ用事があってな」
そう言いながら荷台に乗り込む。
その両手には大量の食料と衣類を抱えていた。
それを見たオリビアは一瞬、目を丸くして尋ねる。
「どうしたんだ、その荷物は。私達は、一文無しだったはずだろう?
まさかお前、とうとう……」
「いや、盗んだわけじゃないよ! ちゃんとおカネ払ってるからね。
やめてくれる?! その疑いの目っ!!!」
「じゃあ、一体どういうからくりでカネを捻出したんだよ?」
「フフン(笑)
俺達は、仕事のあてを見つけたのさ。
だから不要となったものを売っただけさ」
「ハッ!
お、お前、まさか女神さまを……。女神さまを一体どこにやった?!」
「わたしのダーリンはそんな酷い事するはずありません。
なんたってわたしを究極に愛してるのですから」
俺のあとから荷台によじ登りながら女神は、そう言った。
「答えは、馬を売ったんだよ。
当分ここで仕事をすることになるから、移動しなくても良さそうだからね」
「じゃあその食料と衣類は?」
「ああ、ちゃんと全部、正規に買ったものだよ」
そう言うとオリビアの瞳は潤み、手で涙をぬぐった。
「壁の国から俺達三人を載せてここまで運ぶのは、さぞ大変だったろうに。
そして、最後に自分の身を犠牲にしておカネに変わってくれるなんて、本当に良い馬だった。
間違いなくこの『雷撃の魔剣姫』オリビアと旅した仲間だった。
馬よ、本当にありがとう。心から感謝する」
オリビアはしばらくの間、感傷にひたるように泣いていた。
俺は、慰めたい一心で、ひとつ食料をオリビアに差し出す。
「お、おおおっ!!! これは食べ物か?! しかもこんなにも美味しそうな肉っ!!!
四日ぶりの食事だっ!!!」
そして、その肉を頬張りながら旨い旨いと食べるオリビアに俺は、そっと心の中で呟いた。
「その肉が、お前の仲間だった馬なんだけどね」




