ちょっと待って下さい
俺は財布から泣けなしの一万円札を取り出し、女神(悪魔のような)のもとに近付こうとした。
「あっ、待って下さい。
お金は、そこの床に置いておいて下さい。
あとで、わたしが回収しておきますので」
「?」
俺は怪訝に思いつつもそれに従って、一万円札を手前の床に置いた。
「それでは、行きます」
女神がそう言うと、俺を中心に半径1m位の青白い光の円柱が天空まで現れた。
その中の俺はどんどん軽くなり、宙に浮き始めて床から離れて行く。
恐らくこのまま上昇して行くと新しい異世界へと繋がっているのだろう。
「いや、いや、いや、いや、ちょっと待て―――――――――い!!!!!」
俺は絶叫した。
すると、光の円柱は一瞬にして消滅し、急に重力を取り戻した俺は急降下して床に尻餅をついた。
「どうかなさいました?」
女神は、羊の頭を少しだけ傾けて質問する。
俺は、しこたま痛がるお尻を撫でながらこう言った。
「いや、異世界行くなら普通はあるでしょう?
チート級のスキルとか、伝説級の武器とか、全属性魔法とか?
でも、俺はまだ何も貰ってないぞ。
このまま行っても、普通の人間が危険地帯に行くだけじゃないか!」
「ええ、まあ、それは勿論あります。
オプション料金で。
でも、あなた、もうお金ないですよね?」
地獄の沙汰も金次第とは、ああ、この事か……。