忘れられた記憶
地獄より生還した俺は早速、今後の方針を検討するべく、さきにこの世に帰ってきていたであろう仲間たち(女神のアクエリアス、オリビア、ドザエモン)を部屋の中に集めた。
しかし、そこで驚くべき事実を知る。
なんと、俺以外の四人には地獄で経験したこと、というより地獄に行ったという事実さえも記憶に残っていなかったのだ。
彼らの言うことには今朝、俺は宿屋のベッドでどうやっても目覚めず医者や魔術師に見せても原因不明。何か手の施しようがないかを考えあぐねていたところ夕刻に自然と目覚めたと。
そんな彼らには、俺とともに経験した地獄の記憶も幼児姿の神様との出会いさえも記憶にない。
もしかしたら俺が持っている記憶こそが、夢であり現実ではなかったのではないか?
俺はうつろな記憶をもう一度思い出して頭の中の混乱を整理するため、仲間達を部屋から出してひとりに戻った。
日差しは街並みの境界に差し掛かり、辺りはオレンジ色の暖色に包まれる。
「おっと、もうそんな時刻か…」
うっそうとした部屋の中で現実味のない記憶を繰り返し思い出していた俺は、頭をリフレッシュするため外に出て、町の中心にある噴水広場のベンチに座ってぼうっとしていた。
「そろそろ帰らないとあいつらが心配するかもしれんな」
俺はベンチから立ち上がり軽くおしりをハタいてからその場を去ろうとした。
と、その時にベンチの裏の方から何やら聞こえてくる。
グエー! ギョエー! ギャーース!!!
何事かと視線を向けた先に、俺はロープでぐるぐる巻きにされた一匹のオーム(鳥)が叫んでいるのを見た。
鳥は見事なエメラルドグリーンで翼の先がオレンジ色の鮮やかな鑑賞用ペットであることは間違いない。子供のいたずらなのか、食い込むロープが鳥の自由を奪って大変苦しそうである。
それを見ながら、俺は昔のことを思い出していた。
そういえば子供のころ、母親がよくスーパーの前に止まっているワゴン車で売っている焼き鳥を夕飯に買ってきてくれたっけ。
俺はそれが嬉しくて兄弟と分け合いながらよく食べたっけなあ~
懐かしく思い出すと、お腹もそれに答えるようにグウと鳴る。
帰りに出店の串焼きでも買ってこうかなとその場を去ろうととした時、声がした。
鳥 「いやっ!! そんなのどうでもいいから早く助けろよっ!!!」




