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本日のニュースです。

作者: がむ

数年前に書いたもので、当時初めて書いた小説になります。

投稿に際して軽く修正はしておりますが、誤字脱字やおかしな文章などありましたら、感想にてお知らせください。修正させていただきます。

よろしくお願いします。

 昼間を過ぎると空腹で目が覚める。

 どうやら昨日も寝落ちしてしまったらしい。

 数時間前のギルドメンバーのチャットに一通り目を通してから、枕元のパソコンの電源を落とす。

 確か昨日のうちに部屋に持ち込んでおいたカップ麺があったはずだ。

 今日の昼飯はそれで良いだろう。

 足元に転がっていた醬油味のカップ麺とコンセントの近くの給湯器を引き寄せ、ついでにリモコンでテレビの電源をつける。お湯を注ぎながら貯め撮りしておいたアニメを適当に物色し、流し始めた。



 ここは俺の城だ。この部屋にはなんでもある。

 布団の周りにはパソコンもテレビもゲーム機も漫画も転がっている。

 ただただ無意味で不愉快なこの人生を生きるためにはこれらのアイテムは必須なのだ。


「クッソつまらんな、このアニメ。はいはい、駄作決定、一話切りっと」


 長い引きこもり生活で手に入れた正確な体内時計を頼りに、カップ麺をすすりはじめる。

 それから、たった今落としたばかりのパソコンの電源を手癖のように入れなおす。

 たった今まで見ていたアニメの感想まとめサイトに行き、コメント欄に罵詈雑言を並び立てる。


「うっわ、即レスかよ、この時間だしニートか? ほんと萌え豚はキモイなー」


 顔真っ赤にして噛みついてきたコメントに煽り返し、返事を確認する前にブラウザを閉じる。


「睡眠欲、食欲ときたらやっぱり最後は性欲ですなー」


 最近購入したばかりのエロゲーを起動し、鑑賞モードからお気に入りのセックスシーンを選択する。枕元に置かれたティッシュケースから数枚抜き出してから、布団に横になり、パンツを下した。



 射精後は尿意を覚えるものらしい。

 詳しい理由までは覚えていないが、昔ギルドメンバーに教えられて「誰もがそうだったのか」と驚いた覚えがある。

 世の中にはボトラーとかいうのがいるらしいが、さすがに俺もそこまで落ちた覚えはない。

 部屋に備蓄してある食料が切れた時とトイレの時だけは部屋から出るようにしている。とはいえ、あまり部屋からは出たくはない。さっさと用を済ませて、部屋に戻る。


 女がいた。

 確かにさっきまでそこにはいなかった女がそこに転がっていた。


「……は? な、なんだ、これ」


 昔好きだったライトノベルに、急に美少女が現れるという設定のものがあったなぁ、となんとなく自分でも驚くほど冷静な感想が頭をよぎる。が、あれは創作であって、現実に起こることなどありえない。

 ――と、なれば


「夢……?」


 あまりそんな感じはしないが、そうなのだろうか。

 自分でもベタすぎるとは思うが頬をつねってみる。痛い。


「あ、あの……? だ、大丈夫、です、か?」


 ひとまず立ち竦んでいても始まらないと、恐る恐る近づきうつぶせに倒れこんだ女性の肩を揺すってみる。


「ひっ、つ、冷たい……」


 その人の体はまるで死んでいるかのように冷たかった。というより


「し、死んでる……?」


 付け焼刃の知識で首筋や手首に指をあてて脈を量ろうとしたり、口と鼻で吐息を確認してもやはり死んでいるようだ。


「なんで、なんでなんでなんで……。つか、だ、誰なんだよ……?」


 ここは俺の城だ。誰なんだ。邪魔しないでくれ。本当に死んでいるのか? 俺はただ毎日平穏に暮らせればそれでよかったのに。どうすればいい。なんでこんなことに……。

 様々な思考が頭の中を回り、吐き気がしてくる。へなへなと腰を落とし頭を抱える。

 今必要なものはなんだ。このまま放置? まさか。

 親はめったに部屋には入らないがみられるとまずい。

 ならばどうするか。

 警察? ありえない。俺が殺ったなんて思われたら、その時点で俺の人生なんか詰みだ。

 となれば、どこかに捨ててくるしかない。

 どこだ。どこなら、一番安全だ。近くの公園? いや、家の近くはまずいだろう。

 かといってあまりに遠い場所は運搬の面を考えると免許も車もない俺には無理だ。

 ならどこだ。自転車はまだあった……はずだが、まさか背負っていくわけにもいかない。

 ならまずは運ぶための鞄が必要だ。親父が出張の時にたまに持っていくキャリーバッグがあったはずだ。

 入るかは分らんが、うちで一番大きなバッグがあれだ。無理矢理にでも入れるしかないだろう。

 後は結局一番の問題は場所だ。

 家から歩ける範疇で人目につかない場所、そのうえでキャリーバッグが捨ててあっても、不思議じゃない場所。その両方に当てはまる場所は……。


「あそこか……」


 家から数キロほどの山の中の廃れた公園。

 あそこなら大丈夫だろうか。民家までは少し離れていて、遊具もないのに無駄に広い。

 なおかつその辺が校区の小学校からは大きく離れていて小学生たちもあまり遊んでいない……はずだ。

 少なくとも俺が小学生の頃はそうだった。

 キャリーバッグも不法投棄で捨てられていたとしてもおかしくはない。

 それに藪の中に突っ込んでおけば人目にも付きづらい。

 十年近く近寄っていないことが、不安要素と言えば不安要素ではあるが、死体を処理しようとしているのだ。多少の賭けになるのは仕方ないと切り捨てるべきだろう。

 頭の中でそう結論づけると、途端にそれしかないような気がしてくる。


「……やるしか、ない」



 やることが決まってもことはそうスムーズには進まない。

 まず何よりも他人の死体というものが気持ち悪い。

 念のため、顔つきを確認するが間違いなく知らない女だ。

 正直美人でもかわいいという顔でもない。四十点ぐらいがいい塩梅だろうか。

 首筋には縄で絞めたような跡が残っていた。首吊り自殺……なのだろうか。

 どちらにせよ、どういう原理か俺の城にワープしてきたのだ。

 自殺だろうと他殺だろうと、迷惑なことこの上ない。

 倉庫の奥からキャリーバッグを引っ張り出し、死体を仕舞う作業に入る。

 気絶した人は意外と重いというのはよく言われる話だが、死体はそれにプラスして固い。

 大きさ的にギリギリだったこともあり、かなり苦労しながら押し込んでいく。


「なんで…! 俺が! こんなこと……!」


 悪態でもつかなければやってられない。

 さっさとこの異物をどこかへやってしまいたい。

 これさえなくなってしまえばいつもの俺の城が返ってくるのだから。




 汗だくになりながらなんとか死体を入れることに成功する。

 手も足もあらぬ方向を向いていて見ているだけでも気持ちが悪い。

 だが残念ながらまだ終わりではない。

 ここからこれを運ぶ必要がある。正直気は重いがグダグダ言っても始まらない。

 前に履いたのがいつか分からなくなっているほど久しく足を通していない靴を履いて、俺の気分に比例して、ずっしりと重くなっていくバッグを引きずりながら、家を出る。

 平日の昼間ということで人通りは少ないがどこからか子供の遊んでいる声が聞こえてくる。目的地の公園には誰もいないといいのだが……。

 まだ五月だというのに太陽の光は強く、家を出る時点で汗まみれだった体をさらに熱してくる。太い脚は自分の体重を支えることに悲鳴を上げており、腕はガタガタのアスファルトの上でキャリーバッグを引っ張っているせいで、こまめに持ち替えないとやってられない。


「これだけ暑いとすぐ腐っちまうだろうな……」


 まだ夏は遠いとはいえ、こんな中野ざらしにすれば死体はすぐに腐敗を始めるだろう。

 気付かれるのが早まるのではないかという不安の一方で、これを最初に見つけた人間の気持ちを想像するだけで少し、本当にほんの少しだけ気持ちが軽くなる。

 そうだ、俺はもうこれだけ苦しんだ。あとはほかのやつがこれで苦しめばいい。

 俺だけが苦しまないといけない理由なんてないはずだ。


 たった数キロの距離でもこれだけの重量のキャリーバッグを引きずって歩くとなるとかなりの重労働になった。

 それでもなんとかバッグを公園まで運び、適当に人の目につかない藪の中に突っ込んでおく。

 幸い、公園どころかその近くにも誰もいないようであったし、来るときもほとんど人とは出くわさなかった。仮に見つかったとしても俺に疑いの目が向くことはないだろうし、そもそもこんな捨てられたキャリーケースを開けるような物好き、いるわけがないのだ。

 これで俺の仕事は終わりだ。そうだ、今日の夕方からまたオンラインゲームのイベントが始まるはずだ。想定外の仕事が入ったせいですっかり忘れていた。

 とにかく一刻も早く俺の城に戻ろう。久しぶりにシャワーで汗を流して少し仮眠をとって、それからはまた寝落ちするまで徹夜でゲームだ。何もなかった。これで、俺の今までの生活が戻ってくる。

 なんにせよ、肩の荷が下りた。さきほどまであれほどまでに重かった体がまるで、羽が生えたかのようだ。

 早く、家に帰ろう。



『本日の夕方、T県T市内にある公園で、身元不明の女性の遺体が発見されました。女性はキャリーケースの中に無理やり押し込まれたような形になっており、警察は身元の確認を急ぐとともに、なんらかの事件に巻き込まれた可能性があるとみて捜査を進めています』


『昨日の夕方、T県T市内の公園で遺体となって見つかった女性は、行方不明となっていたO県在住の木下陽子さんだと発覚しました。警察は引き続き捜査を進める方針です』


『六日の夕方に、木下陽子さんが遺体となって発見された事件。警察への取材によりますと、木下陽子さんの部屋から吊るされた状態の縄が発見され、自殺の可能性も視野に捜査を進める、とのことです』


『六日に木下陽子さんが遺体となって発見された事件。警察は死体が遺棄された公園の近所に住む男性を殺人及び死体遺棄の疑いで逮捕しました。逮捕されたのは、三十四歳無職の酒井明夫容疑者です。酒井容疑者は調べに対し、「殺していない」と容疑を否認しているということです』


「この事件で最も不可解な部分はなんといってもT県とO県という離れた地で起こった殺人である、という点ですね!」

「酒井容疑者と木下さんの間にどのような接点があったのか、また何があったのかが今回の事件の大きな焦点になりそうですね」

「いやいや、ちょっと待ってください。そもそも木下さんは本当に殺されたのでしょうか? 彼女の死因は彼女の自室での首吊りですよ? それ以外に外傷もなかったのですから自ら首を吊ったと考えるのが自然ですよ」

「じゃあなんですか? 酒井容疑者は木下さんが自殺した部屋に押し入って死体だけをもって帰り、そこでキャリーバッグに詰めて遺棄したと? 何の意味があるんですか!」

「そもそも酒井容疑者は車も免許も持っていません。その彼がどうやってO県までいったのでしょうか……」

「そんなもの! いくらでもやり方はある!」

「行きはともかく帰りもですよ? 公共の機関を使ったとは考えにくくありませんか?」

「この事件にはもっと不可解な部分があるんだ! そんなことは些細なことだろう!」

「落ち着いてください! い、いったんCMです! CMのあとは酒井容疑者がどのような人物であったのか、追ってみます!」


『本日О県に住んでいた木下陽子さんが殺害、遺棄された事件の初公判となります。番組がアンケートで無作為に五百人にアンケートを実施したところ半数以上が有罪であると思う、と回答しています。しかし、回答者のほぼ全員が動機についてはわからず少し不安になっている、との回答も出ています』


『木下陽子さんが遺体となって発見された事件。大方の有罪との見方に反し、本日無罪の判決が下りました。検察は控訴する方針とのことです。さて、続いてのニュースです』


読了、ありがとうございました。

良ければ、評価感想など頂けますと今後の活動の励みになります。

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