ユーリとヤトサラルとコロンと俺
「これは、なんですか? 私も見たことがないですね」
「えーっと、こちらはアカ様に納品頂いた回復薬でして、私も今使い方などを教えていただいていたところです」
「回復薬! へぇーこんな回復薬が! すごい! 造形もいい。フタが……どう開けるんですかね、少し臭いを確かめてみたいのですが。そのまま上に引っ張れば……」
ひっくり返したりちょっと振ったりとやりたい放題だ。
遠慮はない。落として割れたり壊れたら弁償してもらうぞ?
「先程私も開けようとしたのですが、どうやら開けて使うタイプではないようで」
「開けない!? ……となると、地面にぶつけて拡散させる魔道具によくある魔法玉タイプの回復薬ということです? それはそれですごいですね。そうなると形が投げにくいのは難点では……」
「聞かなければ私もそう思うところでしょう。しかし、違うんです。叩きつけるようなものではありません。それは――」
「待って! そう、答えは待て下さい。私も錬金術師を名乗っています。予想はできるはず。魔法玉タイプではないしフタも開けない。しかし、液体が入った回復薬……いや、固定観念を捨てると魔力を通す……魔道具タイプ……わかった! 魔道具タイプで魔力を通すことで複数回使える物! なるほど、でしたらこの形も納得です。持っているときに指に引っかかって落ちにくいということですか」
「残念ですが」
「な……そうですか、これも違う。でしたら強く振って――」
目の前で何かが始まってしまった。暇なのか?
長くなりそうだ。すごく。
俺はイスに何も言わず腰かけるコロンの元に向かった。
「終わった?」
「いや、外野が入ってきて中断した。話が終わるまで待とうと思ってな。すまんな、待ってるだけなんかつまらないだろ?」
「そんなことはねえ、来たことない場所なんて見てるだけで楽しい」
俺も来たことない場所は見てるだけで楽しいから同じだな。
暇してないなら良かった。
「どう? 納品はうまくいきそうか?」
「大丈夫だと思う。最悪ダメでもまた別の物を作ればいいよ」
「…………なあ」
「ん?」
顔が見えないからなんとも言えないが、少し言いにくそうな感じだ。
何かあっただろうか。
「……あだしさ、なんにもしてない。ここに来てさ……ずっとあなたに寄生してる気分」
「いいよ」
「良くない!」
少しだけ力のこもった声にびっくりする。
なんにもしなくていいって嫌か。そうか。
俺なんかヒモにしてくれるって言われたら喜ぶと思うが……よく考えたら俺の方がおかしいな。引きこもりの考え方だ。
「でも、野菜しか育てたことなくて。あだし、なんもできない。やりたくても、ハンターになって魔物を倒すこともできないし薬草の区別もつかない。商才もない物も料理も作れない錬金術なんか知りもしねえ。どうしたらいいのかなって……あなたに聞いても仕方ないけど」
色々考えててちょっとびっくりした。俺なんか何も考えてない。
何かできる事を考えなくては。
そうだな、今、コロンができること、農業。それ以外は俺が知らない。
「じゃ2人で野菜育てるか」
「え!?」
「農業やろう。そういえば俺もまともに畑育てたことないなぁ。やるとなったらギルド登録しないと。あ、コロンは農業ギルドに登録してるのか?」
「あ、うん」
「ならコロンの方はいいか。俺の登録をしに行かないとな」
どうせいつかは登録する予定だったし、丁度いい。このタイミングしかないだろう。
「何でも解決してくれるんだなぁ……あだしの悩み」
「たまたま解決できたってだけだよ」
「ありがとう、ね」
素直に感謝されて嬉しい気分に浸っていると向こうからユーリとヤトサラルが近づいてきた。
やっと無意味な議論が終わったようだ。
「すみません、ヤトサラルさんとの話に夢中になってしまって……おや、こちらは?」
俺の隣の鎧に顔が向いている。
なんて説明すればいいのだろうか。説明が難しいな。
「あだしですか? 嫁のコロンです。いつもアカがお世話になってます」
「あ、え。あ、奥様でし、たか。アカ様、結婚してらしたんですね」
これは、否定できない雰囲気だ。
いや、もういいか。嫁さんでも。こういう結婚もあっていいんじゃないかな。2人で一緒に部屋にいても気にならないし、彼女以外に考えられない。
「そうだな。結婚したのは最近だが」
「それはおめでとうございます」
結婚したかどうかはわからないけど。ただ市役所みたいな場所はないし、どこかに届け出を出さなきゃいけないものではないだろう。
この街には教会みたいな場所もないし、結婚式的なものもないんだろうな。
ヤトサラルは手に俺の回復薬を握りしめて、俺とユーリが話すのをソワソワした様子で見守っている。
なんだろうか。長身の大人の男がウズウズしているのを見るのは気色が悪いのだが。
「あ! あの、話はもう終わりましたか?」
「ああ、その……どうしたんだ?」
「これを一度どうしても使いたいんです! お願いします! 一度使ったところを見たいんです。私が使わなくても見るだけでも! どうか!」
本当に気色が悪いな! 懇願と言っていいだろう。腕にしがみついてくる。なんなんだこのエルフは。
ただの回復薬を見たいだけで、よくその熱量を持てるな。
「まあ、ユーリも一度見ておいたほうがいいだろうし使っても構わないが」
「よし! じゃあどうします!? さぁ!」
「な、なにが? ちょっと、揺らすのはやめてくれないだろうか」
「おっと失礼しました。誰が使います?」
いや別に誰でもいいから早くしてくれ。こっちの頭の中はもう農業ギルドにいってるんだ。
「じゃあ、すごく興味がありそうなのでどうぞヤトサラルさん」
「いいんですか! うわぁ緊張するなぁ。1回ですね1回。失敗は許されないということ。はぁ……気持ちを落ち着けて。広範囲型と聞いているのでちょっと失礼しますね」
隣にコロンがいて目の前にユーリがいる。
ユーリと俺の間にヤトサラルが割り込んできて回復薬のトリガーを一吹きした。
プシューっと上向きで出された霧状の液体がみんなにしっかりと降り注ぐ。
やっぱり無臭はいいな。
「すごい! 4人全員範囲に入りました!」
「まあ、あれだけ全員が近づけばな」
「いやいやいやいや、これは革命です革命。回復士が職を失うレベルの話で……範囲回復魔法と比べると回復量こそ劣るものの、材料を上質なものに変えるとそれすらも改善される可能性を残した物であり、さらに! 詠唱不要。誰でも使えて場所も取らない。魔力を貯める必要もなければミスすることすらない。少し高い場所から降り注げばかなりの広範囲に回復効果を及ぼす事もできて……ああ! 考察が止まらない!」
なにこれ怖い。多分頭がどこか壊れている。その回復薬で直れば良かったが、あいにくそんな効果はその回復薬にはない。
エルフといえば長命だが、長く生きてればやはり頭のどこに不具合が発生するということだな。
ペラペラ喋るエルフの話が終わるのをユーリとコロンと一緒に待っていた。




