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ハンターギルド

 声が出そうになるのをグッと堪える。


 す、すごい! これぞギルドだ!


 こう、強そうな人がワラワラいるのだ。


 内部もシンプルで、椅子とテーブルが部屋の端にいくつかあるだけ。中央は受付に並ぶ人がゴチャゴチャならないように何も置かれていない。


 ああ、いいなこれ。この雰囲気。



「今日はまだ早いから空いてるぜ。こっちだ」



 ゲドルが先頭を歩いていくので、もう少し感慨かんがいふけりたかったがついていく。



「おっちゃん! 俺の仲間ちゃんときたか!?」


「おうゲドル。しっかり魔物を倒せたみたいだな。良くやった」



 巨人族か? でけぇ。


 ゲドルの頭を片手で鷲掴み撫でた。


 2メートルぐらいの身長だ。ゴツい恐怖の顔面でスキンヘッド。頭の半分を覆うように大きな傷が付いている。



「当たり前だろ! それよりもおっちゃん。こいつはアカって言うんだけど、ハンターギルドに登録したいんだって」


「んんん? おまえさん。何でハンターになりたいんだ?」



 顔面を近づけてくる。


 カウンターにバリケード作っとけよ! なんで乗り出してくるんだよおっさん! 顔面が怖ぇよ!



「金だ。金が無いからだ。金が欲しい」


「ハッハッハッハ! 良いだろう。良い理由だ」



 何か分からないが良いらしい。


 ひとしきり笑ったおっさんが、真顔でコチラに向き直る。



「じゃあ、あっちから外に出な。体力テストだ」



 受付の奥を背中越しに親指でさしている。


 その指のさしかたカッコイイな。俺も今度機会があればやろう。


 体力テストか。中学生以来だな。


 受付の奥にある扉を抜けると、ひらけた場所に出た。


 他の建物が壁になって外から中が見えないようになっているようだ。


 相撲の土俵のような円が描かれたフィールドだ。


 相撲でもやるのか?



「はいはーい。じゃあ、私が相手になりまーす」



 扉を叩き割らんばかりに開けたかと思うと猫が入ってきた。


 これは猫よりの獣人さんだ。2足歩行というだけで人間である部分が見当たらない。そして毛がふさふさで可愛らしい。



「で、何するんだ? 何も聞いてないんだが」


「あれ? 聞いてない? 戦うの、私と」


「俺が?」


「そう」



 体力テストは?


 これが体力テストなのか?


 まあいいや。



「わかった。それでルールは?」


「ルールも聞いてないよね……なにやってんだろサトールさん。私が攻撃するから君はこの砂時計が落ちるまで逃げたり避けたり防いだりするだけ。ちなみに身につけてる物が壊れても責任はそちら持ちだからね」



 こっちは攻撃できないんだ……。


 ベテランなのかはわからないけど、戦闘に慣れた人の攻撃を初心者に受けさせるって何考えてるんだろうか。


 それに弁償もしないのかよ! まあいいけど。



「よし、いつでも構わない」


「へぇ、自信あり? じゃ、こっちも気合いれていきますか!」



 表情が見えないようにフルフェイス型のヘルムをあえて選んでいるから結構ビビっているのはバレていないようだ。


 初の対人戦だ! こっちも気合いれていくぞ!


 猫獣人さんが砂時計をひっくり返すと同時にコチラに駆け出してきた。


 結構遅い。



「鎧で全身覆ってるから多少強めに当てるよ!」



 そう言いながら猫さんは空中で横に回りながら俺の胴回りへ蹴りを放ってきた。


 間近で見る格闘術に見入りそうになるのを抑えて後ろに下がってかわす。



「ニャニャ!? い、意外に身軽ね」


「そりゃどうも」



 太ったデブ野郎のクセにって思ってるんだろうな。泣きたくなってきた。


 空を切った蹴りでもバランスを崩すことなくキレイに着地する。流石だな。やっぱりベテランだろこの人。



「ちゃんと私の攻撃が見えてるなら、もっとスピードあげても大丈夫そうね!」


「全然大丈夫じゃないだろ」


「獣化!」



 何か技名のようなものが聞こえたが!?


 さっきまでのはスピードを抑えていたのか、まだスピードが上がるのかはわからないが、1段階スピードが上がったぞ。


 さっきの一撃から思っていたがかなり変則的な格闘術だ。空手のようにどっしり構えて戦うタイプじゃない。


 前方倒立回転しながらコチラに近づいてくるとかもう対人戦特化タイプだな。魔物に対してフェイントがそれほど有効だと思えない。


 とか思っていると回転の勢いそのままに縦の蹴り、かかとが飛んでくる。


 これも後ろに下がって避ける。


 当たったら首が凹むぞ。俺は防御もHPも高いから大丈夫だろうけど普通の初心者にそんな蹴りしたらだめだろ絶対。


 ってまだ近づいてきてる!


 いつの間にか回転が止まって顔へ右フックが飛んでくる。


 すかさずかがんでかわすが、左膝が目の前に現れた。


 屈みながら後ろに転がって距離をとった。


 えー……そんな本気でくるの? 本当に? もう怪我をさせに来てるとしか思えないんですが。



「ニャニャ!! 本当に当たらないニャ!」



 語尾にニャが付いて猫っぽさ倍増だ。



「おい、当たったら怪我するぞ」


「その鎧があれば大丈夫ニャ」



 殴られるのは嫌だしこの鎧殴るのも痛いだろうから攻撃をかわしていると、壁際に追い込まれてしまった。


 後ろに下がり続けたのだから当然こうなるだろう。



「フッフッフ。観念するニャ」


「どこかの悪者かよ」


「シッ! 魔衝脚ましょうきゃく!」



 空気を吐き出す声とともに聞いたこともない技名。何考えてんだ! 高速の中段蹴りか! 避けづらい中段を選ぶとか本当に鬼畜だなこの猫!


 地面スレスレまで屈んでかわす。こんなことならステータスの速さにもう少しポイント入れとけば良かった!


 フルプレートメイル付けて地面まで屈むと鎧がかなりきしむ。


 そもそも避けたりするのを想定していない装備だからな。


雷雷脚らいらいきゃく!」


 逆の足で蹴り上げてくるのは想定済み。というか、それ以外だと簡単に避けれる自信がある。


 中段蹴りの勢いをそのままにローリングソバット気味の打ち上げる蹴りを俺の顔面へ放ってくる。技名の通り雷をともなって。俺を殺す気か?


 俺もその攻撃を避けるために体を起こし、勢いそのまま飛び上がる。背の壁を足場にもう一段飛び上がるとそれほど背丈のない猫さんの上を飛び越えた。少し壁がえぐれたが弁償を要求されないだろうな。


 勢いを殺しきれず地面を転がりながら距離を取る。



「ニャ!?」



 一切余裕はなかったが、余裕ありました感を出してゆっくり立ち上がる。



「これで降り出しだな」



 中央に戻って少しだけ得意げな顔をする。ヘルムで顔は見えてないだろうけど。


 ビー! っと警報音が鳴るのでそちらに目を向けると砂時計の砂が全て落ちていた。


 ブザー付砂時計……レアアイテム……俺、持ってない。欲しい。


 ……いやいや、金が無い。まず欲しい物を揃えるためにも金を用意しなくては。


 物欲が押し寄せてきたので軽く頭を降っておく。



「一撃も当たらなかったニャ……」


「いやいや、あんな本気で怪我をさせに、というか殺しに来るとは思わなかったぞ」


「怪我をさせたいわけじゃないニャ! テストなんだから耐久性も見なくちゃいけなかったのニャー」


「耐久性が必要ないぐらい避けれるってことで構わないだろ?」


「ニャ……」



 ガッカリしている。だが、攻撃を喰らいたくもなかったから俺も全力で避けた。


 ステータスの速さにそれほど数値を割り降ってないにしても、常人より高い速さにはしたつもりだった。


 だが、変則的な格闘術ということもあってかこっちもかなり本気で避けなくてはいくつも喰らっていたのだ。どれだけこの猫さんが速いのかがわかるだろう。



「うん、仕方がないニャ! とりあえず合格ニャァ。おめでとう!」



 何か知らないが合格したらしい。これでもしギリギリ合格ならギルド試験のハードル高いな。


 そういえばゲドル来なかったな、帰ったのか。


 猫さんと二人でギルドへの扉をくぐった。

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