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街 グレストル

 扉を抜けた先にゲドル達がまだ立っていた。



「どうしたんだ?」


「アカを待ってたんだよ。この街初めてなんだろ? 俺が少し案内してやるよ」



 日が沈むまでに銀貨2枚を稼がなきゃならない俺からしたらありがたい申し出だ。



「まだ助けてもらった礼を返せてもないしな」


「別に返さなくても構わないんだが……そうだな。じゃあギルド。ハンターギルドに案内してもらえるか? 登録しとこうと思ってな」


「任せとけよ! カリンとシールは悪いけど先にギルドで今日の報告とプチプチの魔石を売却してきてくれるか? 終わったら噴水で待ち合わせな」



 カリンとシールが先に歩いていく。



「別に同じ目的地なんだから一緒に行けば良かったんじゃないか?」


「いやいや、グレストルをなめてたら痛い目を見るぜ。アカじゃ多分時間がかかるんだ。まず……」



 門の前に突っ立っていた俺の手を誰かが後ろから引く。


 突然の事に結構ビビリながら振り向くとシワだらけの小枝のような細い腕をした老婆、猫の獣人だ。この獣人は人よりの獣人だな。耳としっぽ以外は人間だ。


 薄汚れたボロを着て、今にも死にそうだ。



「な、なんだ?」


「だ、旦那さま。5日……もう5日何も食べておりませんのです。私に何か食べるものを……小鉄貨1枚でもかまいません。どうか……どうか……」



 入った時には気づかなかったが門の周りに似たような者が沢山いる。


 塀にもたれかかる者や地面に敷いたボロボロの布に横たわる者など、酷い有様だ。本当にこれは酷い。


 子供に見える者もいるし、体の一部が欠損している者も少なくない。



「失せろ!」


「ヒィ……! あぐっ……」



 ゲドルが俺の手を持っていた老婆を突き飛ばした。力任せに押したようで後ろへ転がっていく。


 倒れたときにどこか痛めたのか起き上がる様子を見せない。


 え? 大丈夫なの? というか、なに? 何が起きてるのか軽くパニックなんだが。



「っと、このように最初の関門、物乞い達の攻撃が待ち受けるのさ」


「いやいや、待ち受けるのさ、じゃなくて突き飛ばす必要はないだろ。何やってんだお前」



 明らかに弱った者への非情な攻撃に怒りが出そうになるのを必死に抑え込む。


 まず、ゲドルが何をしたかったのか聞かなくてはならない。



「ん? コイツらは仕事とか自分では何もせず他人から施しを受けようとするんだからクズだよ。金が、飯がほしいなら働けばいいだろ? コイツらのやってることは意味わかんねぇよ。やっぱりアカはどこか優しい雰囲気あるからな。コイツらの餌になるかもしれないと思ってたんだよ。言っとくけど、もし一人に何かあげたら最後、あそこにいる奴らが群がってくるからな。気をつけろよ」


「あ、ああ」



 あれが全部俺に群がられたらというのを想像すると止めてもらって良かったとは思うものの、突き飛ばす必要はないだろう。


 しかも、ゲドルの言うことには誤りが少なくとも一つある。


 自分では何もせず……ではなく、物乞いをしているのだ。何もしていないわけではない。これも立派な仕事だと俺は思うがな。何かの理由で通常の仕事ができない者がほとんどだろうし。


 もちろん街の景観が失われたり、うっとおしく感じるかもしれないが、それはこちらの事情だろう。


 まあ、まだ若いゲドルには理解できないかもしれないし、イチイチ俺の普通をゲドルに押し付ける気もない。



「あ、おい!」


「大丈夫か?」



 ゲドルが俺を止めようとするが、その前に猫老婆の体を助け起こす。


 転がっていく時に付いた傷は見られるが、見たところそれほどダメージを受けているようには見えない。


 単純に栄養が足りないから体を動かすのも辛いのだろう。



「はぁ……はぁ……」


「すまないな。俺は今、飯もなければ金もない」



 抱き上げて、仲間かはわからないが他の物乞いの元へ連れて行く。


 ステータスの力が高いというのもあるんだろうが、ものすごく軽い。生きているのが不思議なぐらいだ。


 金はないが飯はある。水もあるが、ゲドルの言うとおり今ここでそれらを取り出すと大変な騒ぎになるのを予想するのは簡単だ。


 仲間達は猫老婆を寝床へ寝かせてくれた。寝床というにはただのボロ布1枚だからほぼ地面なんだが。


 物乞い達に一礼してゲドルの元に戻る。



「本当にアカのためにならないからあんな奴らと関わらない方がいいぜ。手も体も汚れてるし」



 確かに汚れた。物乞い達はかなり汚れている。地面に寝ているのだから仕方がないだろう。


 フルプレートメイルだから手甲てっこうや胸当てが汚れただけだがな。


 洗えば落ちる物にイチイチ腹を立てる必要はないだろう。



「問題はない。俺の事は俺が責任を持って行動するからゲドルが気にする事ではない」


「そうか? まあ、アカがそう言うならこれ以上は言わないよ」



 できるだけ怒りがでないようにしたつもりだったが、少し威圧してしまったかもしれない。



「よし、気を取り直して街の案内を再開するぞ!」



 ゲドルが元気よく歩き出したのでその後ろを付いていく。


 塀と同じ素材のレンガで作られた家が立ち並ぶ。


 それぞれの家のレンガは色が違い遠くから見るとかなりきれいな景観だ。


 近くに行っても新しい古いの違いはあれど壁がすごく汚れていたりはしない。


 道も誰かが掃除しているのだろう、ゴミもそれほど落ちていない。



「キレイな街だな」


「そうだろう! ここのキングがキレイ好きでね。ゴミをそのあたりに捨てると衛兵が飛んでくるからアカも気をつけろよ」


「あ、ああ」



 街に入る前にそういう大事な事は言ってくれ!


 ゴミをそのあたりに捨てる事はないが、万が一ということもありえるんだからな!


 確かに、先程からすれ違うものに衛兵か冒険者かハンターか判断に迷うような者が多い。多分衛兵がいくらか混じっているのだろう。本当に気をつけよう。



「そうか、ここのキングはキレイ好きか」



 キングという言葉が気になったので回りくどいが名前なのかトップなのかをやんわり聞くか。知らないというのも変だろうからな。



「まあキレイ好きなのはキングの内の一人、消失するカイラ様だけどな」


「ああ、そうなのか」



 どうやらキングは何人かいるらしい。


 翻訳機能がうまくいってないのか、恥ずかしい二つ名が名前の前に付いているが、気にしないでおこう。


 あまりキングについて話を伸ばしても変な奴になりそうだし、違和感なく話を続けるほどの話術はない。黙ろう。


 しばらく右へ行ったり左へ行ったり、迷路のようになっていて覚えるのは大変だ。というか覚えてない。



「どうだ? 結構道がゴチャゴチャしてて同じような家もあるから迷いやすいんだ」


「大丈夫だ」



 マップ機能搭載だからね。


 あー良かった。マップ機能があって。



「ここが道を覚えるまでの一応の目印かな。噴水広場だ」



 キレイな噴水が広場の中央にあり、辺りには椅子が置かれ木が等間隔とうかんかくに立ち並ぶ、見ているだけで癒やされる場所だ。


 これは……素晴らしい。



「良い場所だな」


「だろ!? 俺もここが好きなんだ」



 ゲドルと同じかもう少し幼い子供達が走り回って追いかけっこか何かをしている。


 微笑ましいし、活気もある。手押し車的な物で何かを売ってる人もいる。ああ、ゲドルを放って何が売ってるか見に行きたい。見に行きたい!


 ……我慢しよう。何が売ってても金が無いから買えないしな。



「こっちだ」



 ゲドルが進み始めたので仕方なくその場を後にする。



「物乞いを見かけないが?」



 そうなのだ。物乞いを噴水広場でもすれ違う人の中にもいない。


 門の周りにあれだけいたんだから、もっとすれ違ってもおかしくないはずだ。



「またアイツらの話か? アイツらは門の近くから離れると衛兵にボコボコにされるか殺されるかのどっちかだよ。離れなきゃ飯を買えないから飯を買わなきゃいけないときは大きい道を通らないように裏道を使わなきゃいけないとか色々あるんだよ」


「そうか」



 飯を買うのも命がけか……かなり酷い扱いを受けているようだ。


 俺がどうにかできればいいが、そもそも金もない俺にはどうすることもできないな。まずはギルドで登録しなくては。


 さらにしばらく歩く。


 外から見たときに気づいていたが、この街は広い。


 面倒だな。ギルドに行くまでに結構かかる。



「アレは宿屋でそっちが回復アイテム売ってる店でそこの宿屋は金持ちがよく泊まってる。値段はそこそこ高いけど……それで――」


「はいはい。そうか。なるほど。良くわかる。ほうほう」



 適当に相槌を打ちながらマップに登録されていく情報を確認する。


 ゲドルが紹介した場所が登録されていくようだ。


 紹介されていない店には印がつかない。後で自分で登録するために足を運ばなきゃいけないようだ。



「よし! ここがハンターギルドだ! 道とか大体の店の場所とか覚えれたか?」


「道や場所を覚えるのは得意なんだ。問題ない」


「すげぇ……なんか色々羨ましいな」



 全部マップ機能のおかげだがな。


 他の家より大きな3階建ての建物がハンターギルドらしい。


 両開きの扉をゲドルが開いたのでその後ろに続いて足を踏み入れた。

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