新米ハンター
〜ハンター、ゲドルSide〜
一組の若いハンターが3人、10体の魔物に囲まれていた。
プチプチと呼ばれ、踏み潰すと「プチッ!!」と鳴く魔物。
白く丸い体で触るとふわふわした体毛に覆われた、拳大くらいの魔物である。
その魔物の攻撃自体は単調で、体を弾ませて獲物にぶつかることによってダメージを与えるものしかなく、初級ハンターの依頼としてよくギルドに張り出されているものだ。
一般的な初級ハンターとステータス値がほぼ変わらず、経験さえ積めば問題ない魔物ではあるのだが、初めての戦闘となるとそれなりに苦戦してしまう。
そして今、まさに初級ハンターチームと見られる一団とプチプチとの間で接戦が繰り広げられていた。
「くっ……!」
先頭でプチプチに切り込んでいた戦士型の男ハンターが4体のプチプチから同時に攻撃されるも1体の攻撃を大きなバックステップで躱し、手に持った使い込まれた中型よりやや短い剣を薙ぎ払うことによって2体を牽制。
しかし、残りの1体の体当たりが顔付近まで飛んできた事により肩当てに衝突。よろけて後ろに下がると肩当ての留め具が壊れたのだろう、少し重たい音を立てて地面でその役目を終えた。
「まだ1体も倒せてないぞ!」
戦士型の男が気合を入れ直すかのように大きな声を出した。
後ろに控えている魔術師型の女が火の魔法をプチプチへ放つ。
「い、今、1体倒したわ!」
プチプチが1体黒焦げになって地面で動かなくなる。
その時、もう一人の魔術師型の男が新しい魔法を唱えた。
「す、スピードアップ!」
全員の体が薄い青色に包まれた。
戦士型の男が焦ったように振り向く。
「な、何やってんだよ! 攻撃力を上げてくれ! 俺の武器じゃ何度か当てないと倒せないんだぞ!」
「ご、ごめん! でも、この数は僕たちには無理だよ! 一度撤退するべきだと思ったんだ!」
「勘弁してくれ! プチプチ相手に逃げた、なんてもしハンターギルドに知られたら俺たち全員仕事が受けづらくなるぞ!」
全員動きがぎこちなく、これが初の戦闘なのだと誰から見ても明らかだった。
「あー!! ごめん! 魔法に失敗しちゃったわ!」
女魔術師が手から煙を出している。
魔法の集中に失敗すると通常よりも何倍も多くの魔力を消費し、魔法も発動しない。
「最悪……わたしの魔力、切れたっぽいわ」
「おまっ! マジか……よ!」
スピードの上がった体でプチプチからの攻撃を躱していた男戦士が前衛で苦しそうに声を上げた。
「し、仕方ないじゃない! 突然体のスピードが上がったんだもの!」
「ごめん! 僕のせいだ……」
「悪いが、今そんなこと言ってる場合じゃねぇぞ!」
元々、男戦士の持っていた中型の剣はボロボロだった。
拳大のプチプチに攻撃するには剣を薙ぐか叩きつけるしかない。
体を弾ませるプチプチは横の攻撃より縦の攻撃の方がよく当たるため、叩きつける攻撃をしていたのが裏目に出てしまったようだ。
戦士は根本から折れた剣を二人の魔術師に見えるように手を上にあげた。
「嘘! やば! 逃げるよ!」
「すまん! そっちにプチプチが4体回った!」
「わ、わぁ! くるなぁ!」
男魔術師が手に持った杖を振り回す。
「大丈夫ならいいけど、もしかしてピンチ?」
森の奥から錆びて茶色のフルプレートメイルを装備した太った男が現れた。
「あ、ああ。 俺たちは9級ハンター、純人族のゲドルだ。助けてくれると……くっ!」
「あー、俺は……まあいいや。後で話そうか」
太った男はどこからともなく棒の付いた網を手に持った。