ブラックキメラ、召喚!!
門からしばらく歩いて離れ、サーチであたりを確認。
近くに人影なし。
使ってみたかった機能の一つを起動させる。
“召喚術”
メニューの特殊能力にある一つの機能。
騎乗できるものを召喚してみようと思っていたのだ。
召喚で表示される項目もとても1から全てを確認できる量ではない。
ただの馬から天使や悪魔、車や飛行機なんかまで幅広く表示されている。
最初、馬でいいのではないか、とも思ったが、この世界で馬が一般的か分からない。
そもそも魔物のいる世界で馬なんかすぐ死んでしまう。
かといって歩くのも時間がかかって大変だ。
ある程度は強い生き物がいいだろう。
ランダムに視線を流して止める。
“ブラックキメラ レベル99”
こいつでいいか。
とあるゲームで自分が姿形まで制作したモンスターだ。
一応、乗れる……はず。
ダンジョンポイントを割り振り、スキルやレベルを決めてモンスターを作成するタイプのゲーム。レベル特化にしてスキルは余った少ないポイントでパッシブ系のスキルだけ覚えさせたレベルを上げて物理で殴るモンスターだ。
作りはしたが、そもそも騎乗モンスターじゃない。ダンジョン内に設置してダンジョンの侵入者を攻撃するモンスターだった。
ゲーム内ではドット絵で作ったから大きさがわからない。そもそも絵心は無いので黒一色の見た目に気持ち程度の手足を付けたヘンテコ生物だった気がする。
意外に強く、ゲームの中でもメインにこそなれないもののゲートキーパーとして主要な部屋に配置しておくと侵入者の足止めとMPを削る事に一役買っていた。
よし。
「ブラックキメラ召喚!」
少し気合が入って大きな声になってしまった。恥ずかしい。
体から魔素があふれ出し、辺りを黒い霧が満たした。
霧が一箇所に集まると、そこには見たこともないモンスターが現れている。
真っ黒。目はない。足は4本。手らしきものが申し訳程度についている。
これはまさに、俺の描いたドット絵が3D化したらこうなるだろう。といった姿形だ。
不気味……といって差し支えないだろう。
平均的な人間1.5人分の大きさといったところだ。2m超えで想像より大きい。
少し見上げながらどうやって乗るかを考える。
「乗りやすいように伏せてくれないかな? そもそもどう操縦するんだこれ」
俺の言葉が通じたのか、4本の足を曲げて地面に伏せた。まさか自動翻訳機能が発動したのか、召喚士の意思を感じたのか……今はどっちでもいいか。
足が見えなくなるだけで真っ黒な丘が出来上がる。
足を折って地面に伏せたところで2m近い。
この黒い丘はよじ登るしかないだろうな。
手や足をかけられるような段差はない。
小手を外して、いきなり暴れたりしないかヒヤヒヤしながら、のべーっとした皮膚の表面に触れてみる。
……つるつるしている。毛もない。少し押して見るとしっかり内蔵もあるのか血が流れている脈動を感じる。
外見だけのハリボテではないらしい。俺が作ったのは外見だけだったが。
「少し我慢してくれよ」
そう言って皮膚を掴みながらブラックキメラの背に登った。
俺が登ったのを感じ取ったのか、ブラックキメラも立ち上がった。
視界の位置が変わるだけで世界が変わる。
俺の身長込みで4m近い目線の高さだ。小さい木の頂点ぐらいの高さでで少し危険すら感じる。
だが、身長が高くなり視界が広がるだけでこの世界のことを少しわかった気がするほど気持ちが高揚している。
「よし、行くか!」
ブラックキメラに向かってそう言うと、俺の思いを感じてくれているようで目的地に向かってだろう駆け出した。
……そして、振り落とされた。
コマ送りになる世界。
さっきまで広かった世界が傾き逆さまに。地面が俺に向かってくる。
衝撃。
ヘルムがひしゃげて地面に転がっていく。
地面との激突の衝撃だけでは収まらず激しく転がり、フルプレートが全損して辺りに散らばっていくのが見える。
体一つでしばらくの間、地面を転がった。
衝撃が収まり、体を起こす。何が……起きたのか。
掴まるところがないのはわかっていた。だからある程度しっかり抱きつくように乗っていたのだが、1秒と持たず体が置き去りにされてブラックキメラだけが一人で走り去ってしまったのだ。
既にどこに行ってしまったのかすらわからない。
大変な事になってしまった。
凄まじい速さだった。あれを今から普通に足で追いかけるのは不可能に近い。
さっきから戻ってこいと何度も念じているが、戻ってこない。
召喚したものなのだからいずれ勝手に消えてくれればいいが……。
ブラックキメラの行く末を案じ、ぐちゃぐちゃに変形したフルプレートの残骸をかき集めながら自分が作ったクレータを眺めていた。