そんな勇気はなかった
〜アカSide〜
小銀貨3、銅貨4、小銅貨2。
現在の所持金だ。
ゴモムの草とカカカの実がどこに群生しているかを調べなくてはいけない。
人に聞くか……書店でもあれば所持金内なら買うのもありだ。
さて、適当に知り合いを探すのもありだが……、来たばかりの場所に知り合いは恐ろしく少ない。
酒場は飯代が高く付きそうだし適当に歩きながら話しかけやすそうなやつを探そう。
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話しかけられそうな人は誰もいなかった。
忘れていたが、忙しく歩いている知らない人に話しかける勇気は俺にはない。
気づくと門まで歩いて来てしまっている。
噴水で暇そうにしているやつを探すべきか。
「あっちへいけ!」
怒号、というほどではないが、力強い言葉が門の方から聞こえてきた。
物乞い達だ。
……情報を得るなら彼らで事足りるのではないだろうか。
こちらからは金銭を渡せばWin-Winだ。
早速門の近くにうろつく物乞い達へと近づいていく。
「あんたは昨日の……」
物乞いのうちの一人が俺に気づいたようだ。
昨日の猫老婆とのやり取りを見ていた一人なのだろう。
フルプレートを装備したやつも見かけないので記憶に残ったのかもしれないな。
確か、プチプチ肉一つを店で買うと小銅貨3枚だったな。
「こいつで何かを食べるといい」
銅貨を1枚手渡す。
「え……こ、れをくれるんで……?」
目を先程までの3倍まで大きく開いた干からびた男は銅貨を手のひらの上で確かめるように触っている。
見た目は純人族に見える。
あわあわしているところを見ると、これは渡しすぎた……ようだな。
あげすぎもよくない。お互いに対等な立場というのが交渉ごとでは大事なのだ。店舗経営ゲームでそんなことを言っていたキャラがいたのだから間違いない。
ただのプチプチ肉が小銅貨3枚だから銅貨1枚ぐらい問題ないと思ったんだがな。
「一つ、聞きたいことがあるんだが」
「はっ……はい! 何でもどうぞ!」
明らかにこちらの立場が上になってしまっている。よくない。
だが渡してしまったものは仕方がない。いまさら返せとも言いづらいのだから。
「このあたりでゴモムの草とカカカの実をある程度の数、見つけようと思ったらどうすればいい」
「ゴモムの草とカカカの実……」
何かを考える仕草をして、物乞い達の元へと戻っていった。
…………せめて「少し待っていてくれ」とか「こっちに物知りがいるぜ」とか「そんなものは知らん」とか一言いってから席を外してくれないだろうか。
俺は突っ立ってればいいのか帰ればいいのか付いていけばいいのか分からないんだが?
虚をつかれて動けなかったので、いまさら付いていくわけにはいかない。となると、帰っても仕方がないので必然的にしばらく待ってみるという選択肢になるな。
「鎧の兄さん、わかったぞ」
少し大きな声を出しながら干からびた男がよたよた走りながらやってきた。
物が食べれず、筋肉が痩せて力が出にくいのだろう。ふらふらしていて見ていて危なっかしい。
「急ぐ必要はない」
と、言ったものの、男は俺の目の前に来るまで走るのをやめなかった。
ほら、対等な立場ならこんな体力を使わなかっただろうに。
無駄に体力を使わせてしまった。
「この門から出て森に入らず、左隣の平原を突っ切った先に草原が広がっているらしいんだが、そこにあるらしいぞ?」
「なるほど。助かった」
マップを確認して、ぼんやりと場所が登録されたことを確認した。
あのあたりか。結構遠い。まあ、近ければいくら忙しい錬金術師だとしても自分で取りにいくか。
嬉しそうな顔の男から見送られて門を後にした。