目を開けるとそこには
この度は――。
目を開けると、目の前に文字がある。
正確には半透明の四角いパネルのようなものに文字が浮かび上がっている。
これは……一体なんだ?
何かを考えるときの癖だが、アゴを手で撫でようとして手が動かない事に気付く。足もだ。目以外の何も動かない。
確かゲームをやっていた、というより新しくゲームをしようとしていたはずだが、何があったのか思い出そうとするもよく思い出せない。
仕方なく目の前の文字に視線を這わせた。
『この度はゲームにその人生の全てを捧げていただきありがとうございました。
あなたほどゲームに人生を捧げた方はいまだかつて存在しておりません。
つきましては、そんな数多の世界を渡り歩き攻略の限りを尽くした魂に私の作る世界に是非お越しいただきたいと誠に勝手ではありますが、お呼びしました。
現在のあなたの状況はスタート画面です。別名ポーズ画面。
理解できましたでしょうか。では誰も知ることのない未知の世界をお楽しみください。
ただ一文無しで知らない世界を歩くというのもつまらないでしょうから、あなたにしか価値のない祝福を一つだけプレゼントしておきました。あなたがゲームに人生を捧げたその経験は決して無駄ではなかったのです。
追伸 : 周囲への計り知れない影響を考慮しパッシブスキルは全てOFFになっていますので手動でONに切り替えてご利用ください。
ゲーム神より ✕ 』
ああ、俺、死んだのか……?
なんとなく、本当になんとなくだがしっくり来て、思い出した。ガレキが体へ降り注ぐ恐怖を。
恐怖を振り切り別のことを考える。
そうだ。まだ、やってないゲームが山ほどあったんだ。……あー、仕方がないか。死んだ瞬間は覚えてないが、死んだらしいし。
このゲーム神とやらからのメッセージ? は意味がわからないが、なぜ俺は生きているのだろうか。それにここはどこだ?
“ゲーム神より”の後に✕がついている。
ゲームでよくあるウインドウを閉じるバツボタンみたいだ。
そもそも手が動かないのでバツボタンを押すこともできないんだが。俺自身、呼吸もしてないようだし、うっすら見える外の様子も動かないし、今は時間が完全に止まっていると考えていいのだろう。まさにポーズ画面だ。
視線を✕に数秒合わせたらクリックというのか、変な感覚がありメッセージが消えた。
ん? この画面の動かし方が少しだけわかってきた。ちょっと楽しくなってきたぞ。新しい事をするのはとにかく楽しいのだ。
次のウインドウが開いた。
○特殊能力
○アイテム
○装備
○仲間
○ステータス
○マップ
○キャラクタークリエイト
○ランキング
○システム
○ヘルプ
よくあるゲームでスタートボタンを押したときに表示されるメニュー画面だ。
メニュー画面の隣に俺の全体像が直立不動でゆっくりとクルクル回っていて気色が悪い。
運動していない太った体に目まで隠れたボサボサの髪型。そういえば最近散髪にも行ってなかったな。
サイズ違いで張り付くような白いTシャツに無地の茶色の半ズボンで裸足。
……自分に興味がまるでなかったので自分の姿なんか見るのは久々だがこれはひどい。
あまり自分を見ないようにしてステータスをクリックした。
何はともあれステータスの確認が重要だろう。
名前 名無し
レベル 7aac
EXP ∞
HP 135fzt / 135fzt
MP 120fzb / 120fzb
力 90dzb
防 88dza
魔 75dza
速 84dza
祝福 データ引き継ぎ
ゴチャゴチャしてないシンプルなステータス画面だが……。
今がポーズ画面で時間が止まっていて本当に良かった。
この世界の力関係がわからないから何とも判断が難しいのだが、もし万が一にもそのあたりの村人が力10程度だとすると、俺の呼吸だけで世界が一瞬で消し飛ぶ程の馬鹿げた力になるかもしれない。
画面表示を俺に合わせてくれているのかスマホの放置ゲーのようなステータス表示。だが、これは明らかに異常値だ。それこそ、俺のやり込んだ全てのゲームのステータスを足したかのような――。
そこで思考は止まった。
“あなたがゲームに人生を捧げたその経験は決して無駄ではなかったのです”
俺の………………人生が全て?
画面端にある✕をクリックしてメニュー画面に戻り焦るのを抑えてアイテムをクリックした。
そこには見覚えのあるアイテム達が揃っていた。
容易に全てを確認しきれないほどのアイテム達が。
使いたいアイテムを思うと勝手に画面がスライドしていく。
アーティファクト ステータスリセットの書 ✕ 1197
これだ! あった。いや、あるに決まってる。
ステータスを振り分ける系のゲームには必ずと言っていいほど登場するアイテム。基本的には高価で簡単には手に入らない事が多い。
オンライン系なら課金で手に入る事が多い。ガチャのハズレとか福袋系のアイテムを購入したときにごっそり手に入る。
ステリセポーションやステータスリセットの玉などざっと眺めただけでも同じ効果をもちそうなアイテムがいくつもある。効果が同じかは後で検証が必要だな。
ステータスリセットの書を使いますか? Yes / NO
Yesを選択。
待てよ……まだこの世界のステータスの基準がわからないのだ。早まったかもしれない。
だが、ステータスリセットの書はいくらでもある。
やり直しができるのだから試してみたほうがいいに決まっているのだ。
そうか。これでわかった。
これ程嬉しい事が他にあるだろうか。
まだわからないことは多いし何が起きているのかもイマイチわからないが、ステータス、アイテム、スキルに魔法等など俺が全てを捧げてやり込んできた人生は全てここにあるのだ!!
これまで世界に存在した、そして今も進行形で作成されている全てのゲームの世界が、今日、肯定された気がした。