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依頼

 錆びた大きな格子状こうしじょうの門。


 緑色の生き生きとしたつるが巻き付いて、近づきがたい雰囲気をかもし出している。


 ヒャー近づきたくない。


 この世界に来てから生き物を人間とプチプチしか出会ってないから居るのか知らないが、コウモリとか飛び出してきそうだ。


 そういえば虫すらいない。


 門の前で突っ立っていても仕方がない。鍵はかかってないし突入しよう。


 格子の先には大きめの石をいくつか地面に置いて家の扉まで道が出来ている。そしてあたりは草、草、草。


 芝生しばふ程度ならわかるが、さすが依頼するだけの草だ。


 身長を遥かに超える見たこともない草に辺りが覆われている。


 何故この土地だけ草だらけなんだよ。辺りを見渡しても異常に草が生えているのはこの家の庭だけだ。


 もうぎっしり生えている。光合成とかを明らかに無視している。多分中心の奴は光合成を一切してない。


 石が無ければ歩けなかっただろう。


 木製の扉をノックする。



「誰だ」


「錬金術ギルドの者だ」


「何用だ?」


「依頼を受けた」



 しばらく沈黙の後、扉が開いた。


 灰色の肌の赤い目をした年寄りが現れる。


 白髪と灰色の肌の、薄いコントラストが草で光を遮られた辺りの暗さに浮き出るような、独特の雰囲気で寒気がするようだ。


 金の刺繍ししゅうの入った、古ぼけた服が妙に似合う。



「入れ」



 年寄りが中へと消えていったのでその後に続く。


 中は比較的明るい。例の光る石が置かれている。


 見ただけではわからない、ホルマリン漬けの目玉っぽい何かとか置かれている。魔女の部屋か何かかここは。



「お前さんで3人目だよ」


「そうか」


他所よその国の貴族か何か知らないが、この国じゃその肩書かたがきは何の役にも立ちやしないよ。……失敗したら――」


「聞き飽きた」



 あ、まだ喋ってた。変な間があったから貴族を否定しようとしたら会話が被ってしまった。


 しばらく沈黙が流れる。



「自信だけは一人前だね。お前さん、この辺りの人間じゃないな? ヘルムぐらい外したらどうだい?」


「それより依頼だ」



 なんで顔見せにゃならんのだ。


 おしゃべりをしに来たわけではないのだ。時間がない。



「そうかい? まあいい。庭は見たか?」


「もし、この家の中に居て、あの庭に目がいかなかったらどうかしていると思うが?」


「ハッハッハッハ!! そりゃそうだ! あー久々に笑った。……あの庭を見てもやれる自信があるってことかい。いいだろう。期限はない。一応心が折れるまで待ってやる。一度調べてもらったが土地の栄養が豊富ほうふなのが原因で――」


「すまないが、依頼を達成しても構わないか?」



 アイテムバッグ(極小)から環境破壊スプレーを取り出す。



「既に除草剤持ってたのか。なるほど。それがあったからあの自信なんだね?」



 持ってたわけではない、さっき作ったんだが……まあいいだろう。



「ワシは草さえ無くなればそれでいい」


「わかった」



 後はあの庭にこの薬が効くかどうかが問題だ。依頼主の許可が出たので家から出る。


 依頼を達成させてはなるものかとそびえ立つ草たち。


 依頼主も遅れて家から出てきた。


 シュッと紫の霧を一吹き。


 霧の付いた草が、一瞬で地面までしおれていき、一気に辺りに明るさが戻った。



「な、なんだいその除草剤は!?」


「達成すればいいんだろう?」



 効果範囲は30cmというところ。


 風向きを工夫すればもう少し範囲が広がりそうだが、そこまで効率よくスプレーする必要もないだろう。



「この液体は一体――」


「触るな!!」



 この年寄り、液体を素手で触ろうとしやがった。



「死にはしないが苦しむ事になるぞ。吸い込んでも大変な事になる。あまり近づくな」


「あ、ああ。わかった」



 俺の大きな声に驚いたようだ。


 俺が驚いたぞ。いきなり触ろうとするんだからな。


 シュッシュッシュッシュッ。


 何度も繰り返し庭の草は門に絡みついていたつるまでキレイに全滅した。


 当然、先程確認した時と同じで地面は紫色に汚染されている。


 時間が経てば直るかどうかはわからない。


 スプレー容量は半分にまで減ってしまった。意外に広い庭だったな。



「これで終わりか? まさか他にも庭があるとか言い出さないだろうな?」


「あ、ああ。ここだけだよ」


「じゃあ依頼達成だな」


「それで……その除草剤は売ってないのか?」



 いや、依頼達成は?


 除草剤というか環境破壊スプレー。どうせ使わないからあげてもいいが、その辺りに撒き散らされても困るな。普通に毒物だ。



「これか? これはどこにも売ってないし、これもやれん。それより――」


「残念だよ。ほれ」



 半割された石板のような物を渡された。幾何学模様が書かれている。


 ギルドに達成した証として持っていくものだろう。多分。



「たしかに達成した。持っていきな」


「では。俺はこれで」



 無駄話でも始まると大変時間のロスになる。


 足早に門から出た。


 よっし! 初依頼達成だ!


 錬金術ギルドへと小走りで向かう。


 ギルドに入ると、受付に石板を置いた。



「依頼を達成した」



 例のごとく誰もいないので少し声を大きめに出した。



「これはアカ様」



 茶色と白の混じった大きな翼を揺らしながらユーリが走ってやってきた。


 何の獣人なのだろうか。わしの羽にも見えるから普通に鳥人なのかな。



「依頼で何か問題でも……おや、この石証せきしょうは……」


「だから依頼を達成した。確認してくれ」


「し、少々お待ちを」



 ユーリが部屋の奥にある扉へと消えた。


 やっと金が手に入る。金を手に入れるだけでかなり時間がかかった。


 外にさえ出れれば魔物を倒すなりハンターギルドの素材採取を受けるなりできたんだが。


 外にいる間に魔物をもっと倒しておけば良かった。


 ユーリが何かを持って戻ってきた。



「確かに石証を確認しました。初達成おめでとうございます!」


「あ、ありがとう」



 素直に称賛しょうさんされたので若干気圧されてしまった。



「ギルドコインを構いませんか?」



 ギルドコインをユーリに手渡した。



「達成記録を記入しますので、その間に報酬ほうしゅうの確認をお願いします」



 ユーリが目の前に置いたお金の山を確認する。


 山という程無かった。銀貨2枚と小銀貨1枚だ。


 ……あれ? 確か俺の受けた依頼は銀貨4枚と小銀貨2枚の超高額依頼だったはずだ。半額になっている。



「俺の受けた依頼は銀貨4枚と小銀貨2枚だったはずだが」


「あ、それは10級だからですね」



 10級だからなんだというのだ。


 いや待てよ。確か話を聞いたな。錬金術ギルドはランクによって受けられない依頼は無いが、依頼達成時の報酬ほうしゅうが違うと。ギルドに取られる報酬に差があると。


 えー! 半分も取るのかよ! 暴利だ暴利!


 と暴れたいが、かなりみっともないのでやめよう。たちの悪いクレーマーになってしまう。


 これはだいぶ厳しいな。



「はい。記入が終わりました。ギルドコインはお返ししておきますね」



 ギルドコインと達成報酬をアイテムバッグにしまい込む。



「他の依頼も受けていかれますか?」


「……そうだな。今日はやめておこう」



 今日はそれどころではない。


 お金の支払い期限が迫っている。


 1日でどれだけ走り回らないといけないんだ!


 俺は4度目の錬金術ギルドを後にした。

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