錬金術ギルド
「はぁ……また来られたのですか。今度はなんでしょう」
さっそくギルドにやってきて例の角の人と目が合うなりものすごく嫌そうな顔をされてしまった。
なに? 俺、面倒な客だと思われてる? そんな面倒なことした?
「錬金術で俺が作った品を持ってきた。鑑定してくれ」
「え……もう?」
回復薬をカウンターに置くとガラスと木がぶつかり合ってコトッと気持ちのいい音が響いた。
どうだ! 錬金術使えないとでも思ってたんだろ? 俺が作ったんだぜこれ! すごいだろう!
そう言いたくなる思いをグッと堪える。
別に張り合っているわけじゃない。錬金術ギルドに入ってお金を稼ぎたいだけだからな。
「これは……なに?」
「見ての通り回復薬だ」
「これが回復薬……ずいぶんと珍しい回復薬ね」
「そうか? そうは思わないが」
「普通は軟膏よ。回復薬で液体型は見かけないわね」
ああ、軟膏か。確か回復アイテムの店でいくらか売ってたな。
あれがこの世界の普通なのか。覚えておこう。
回復薬イコール液体ってイメージで液体になってしまったのかもしれない。軟膏の効力がどれほどかわからないが、何度も使えるものだろうからそちらのほうがお得だな。液体は使い切りだろうし。
「じゃあ少し時間がかかるだろうから座って待ってて」
逆らう必要もないので言われた通り常設されている椅子へ腰かけた。
さっきのエルフ耳の男もいなくなっている。
やることがないので、しばらく職員たちの動きを眺めていた。
結構忙しそうにみんなやっている。
何の書類なのかわからないが、書いたり読んだりめくったりと、ガッツリ事務職のイメージそのままだ。
……ん? 大きな茶色と白の混じった翼を背に生やした男がこちらに歩いてくる。
「どうも初めまして、私はユーリ」
「俺はアカだ」
何事かわからなかったが座ったままでは失礼かと思い立ち上がると誰かは知らないが挨拶と同時に手を出されたので握手に応じた。
「やはり貴方がアカ様ですか。……失礼ですが、証明できる物はお持ちですか?」
「ん? ギルドコインならあるぞ。ハンターのな」
「確認させてください」
錬金術ギルドに入れるのならなんでもいい。
ハンターギルドのコインをユーリへと渡す。
ハンターギルドにあったようなコインを置く端末にコインを設置して何やらカタカタしている。
ハンターギルドのコインも錬金術ギルドで確認できるみたいだな。
「ありがとうございました」
ハンターギルドのコインが返ってきた。
「確かに、アカ様で間違いございませんね。錬金術を扱える者はこの街では少ないのでご入門、大変歓迎いたします」
「……」
少ないのか。どうりでギルドに誰もいないわけだ。
……さっきまでの角の人はどこにいったんだ? 態度が面倒そうだったのはお前なんかが錬金術使えるわけがないだろう的な感じだったのだろうか。
「ところで、アンタは何者なんだ?」
「これは失礼しました。先程のシャルルから引き継ぎました、ここのギルドの入門業務担当兼、鑑定業務担当兼、受付業務担当のユーリです」
「名前はさっき聞いたが、ずいぶん兼業してるんだな」
「人手不足でして。ハハハ……」
アイドルの挨拶のようにスラスラと言い切ったその顔は大変疲れているのだろう。目の下にクマが薄っすらと見える。
「アカ様の回復薬を鑑定すると素晴らしい物でしたので、是非お話が聞いてみたいと、私が担当を変わってもらったのですよ」
「素晴らしいか? 軟膏の方が何度も使えるし良いものだろう?」
「確かに何度も使える利点は軟膏の方があります。しかし、軟膏では回復するのに最低でも1日かかりますし、使用者によって効力が多少変化しますから、ハンターの方で購入される方はいません。長距離を移動する冒険者の方や子供の怪我に買う方がほとんどなのです」
な、なんだそりゃ。1日かかる? 効力が変わる? そんなもの戦闘中に使えないじゃないか。それでゲドル達は回復薬を携帯せずに戦ってたのか。
「しかしアカ様のお持ち頂いたこの回復薬を鑑定しますと、即効性があり飲むことでもかける事でも効果を発揮、まさに戦闘での使用を前提としたかのような回復薬でした!」
そりゃ戦闘での使用を前提として作ったからな。日用品だとは少しも頭によぎらなかったし。
「回復量もどうやら高く、裂傷を即時塞ぐ程度の能力があると出ましたから本当に素晴らしい回復薬です」
「そ、そうか? それは良かった」
俺がこの世界に来て2番目に作った物だ。褒められると悪い気はしない。
回復量は全然高くないんだけどね。
「こちらがギルドコインですので大切に保管してくださいね。後、回復薬ありがとうございました」
コインと俺の作った回復薬を受け取ると、先程と同様にコインへ指を置いて魔石の色を変え、錬金術ギルドコインを手に入れる事が出来た。
こちらも10級スタート。少しずつランクを上げるのが楽しいのだ。飛び級したら面白味に欠けてしまうというものだ。
それに10級だからと受けれない依頼はないらしい。ハンターとは違い命に関わるような依頼ではないからとのこと。
だが錬金術ギルドのランクはギルド内の地位が高くなるだけではないらしい。依頼達成時の報酬が変わってくる、つまり、ギルドに取られる額がいくらか免除されるらしい。それにランクが高ければ高報酬の指名依頼が来る可能性もあるとか。目立つ予定がないので夢のまた夢だが。
残すコインは冒険者、魔術師、商業、農業の4つだ!
……違う! 自分の中で趣旨がいつの間にか変わっていた。
お金を集めているんだった。
「早速で悪いんだが、依頼は無いのか?」
「……そうですね。戦時中でもないですし、依頼は少ないです」
マジかよ! マジかよ! マジかよ! 俺が錬金術ギルドに入った意味!
「回復薬等の依頼はないのです。大体は特殊な薬剤の作成依頼が多くなってまして」
「回復薬でなくても構わない。できるだけ報酬の高いものがいいんだが」
依頼があるんなら出してくれ! こっちにはあまり時間がないんだよ!
焦りが伝わっても意味はないのでそれを悟らせないように注意して話す。
「今ある依頼で高い報酬となるとコレですね。結構前の依頼ですが、除草剤の納品……報酬はいいですが、製造方法不明でさらに量があるので誰も受けていません」
依頼が本当に前なのだろう。羊皮紙みたいな薄茶色のくたびれた依頼書を受け取ると、直ぐに目を通す。
依頼名 除草剤の納品依頼(庭の草全滅)
依頼者 グレム
期間 無期限
報酬 銀貨4枚 小銀貨2枚
内容 庭にクソみたいに草が生えていちいち草刈りが厄介極まりない。期間はいつでも構わんから効果のある薬剤を頼むぞ。わかっているな! 効果のねぇ薬剤なんか持ってきてみやがれ! てめぇの墓標がその辺に立つことになるぞ!
手書きで殴ったように書かれてある。字幕翻訳された文字まで殴り書きになっている。どうでもいい。
「依頼内容に関係のないことが書かれてあるが?」
「ハハハ……。まあ、そういう場合もありますね」
製造方法不明で量も多いかもしれないが墓標が立つのが嫌だから受けないんじゃないか、これ。
除草剤か。毒でなんとかならないだろうか。毒草で調合してみるか。魔物の素材とかも欲しいところだが。
「よし。この依頼を受けよう」
「ええ!? 製造方法、わかるんですか?」
「わからん。だからこれから探す」
「先方に受付されたと連絡が行きますが……本当によろしいですか? 一応無期限の依頼ですが。未達成になるとランクアップが遅くなりますし、続けば除名されますが?」
「構わない受けよう。大丈夫だ、心当たりがある」
受付処理をすませ依頼者の住所を聞き、心配そうなユーリの視線を受けながらギルドを後にした。そりゃ俺だってこんな意味不明な依頼受けたくないよ。お金の余裕がないから背に腹は変えられん。報酬は文句ないし。
選べるほど依頼があればな……はぁ。無いものをねだっても仕方ない。これはこれで楽しんでいこう!




