店、ギルド〜アイテム〜
俺が使える錬金術はアイテム同士、2つ以上を合成して新たなるアイテムを生み出すものだ。
素材元となるアイテムは何でも構わない。
石ころだろうが紙ゴミだろうが剣だろうが乗り物だろうが何でも合成できてしまう。
できるアイテムとその品質は素材、投入するMP、錬金術スキルレベルによって変動する。
また、スキルレベルが高いほど自分の作りたいアイテムが出来やすくなる。いわゆる成功率があがるのだ。
実戦したわけではない。ヘルプに、そう書いてあっただけだ。本当にそうなるかはわからない。
現在手持ちのアイテムを使うのも悪くないとは思うが、手に入る見込みがないアイテムを使うのなら現地調達のアイテムを使いたいというケチな思考が働き、回復アイテムの店へと入った。
「……らっしゃい」
岩のようにゴツゴツした鱗に覆われた生物がカウンターからコチラに突き刺すような視線を送っている。
鋭い眼光は物理的に黄色にうっすら光っている。怖すぎる。
パッシブスキルで恐怖に対する完全耐性をONにしていなかったら、すぐさま店を出ていた事だろう。
店主っぽい岩鱗の眼光を無視して店内の商品へ意識を向けた。
大きくない店内に色々なアイテムが所狭しと並べられている。
アイテムの前にはそれが何の種類かと商品の名前とお金が書かれている。
軟膏 ケーフ軟膏 小銀貨2枚
軟膏 アッサト軟膏 小銀貨1枚と銅貨2枚
薬草 クゥワイ草 銅貨1枚
薬草 セワカラ草 小銅貨2枚
薬草 ケルクイの花びら 銅貨1枚
薬草 サクセルの茎 鉄貨4枚
毒草 ギャラドルフの花 銅貨2枚
毒草 ゲフルの花蜜 銅貨4枚
目の前には木目調の丸い入れ物に入れられた軟膏とそれぞれ見た目の違う薬草、それに毒草。
他にも色々見て回りたいが、店主の眼光が気になって仕方がない。今日のところは目の前にある商品で我慢しよう。
どうせ錬金術で使うだけだ。どれでもいい。
小銀貨は懐に優しくないので軟膏の購入は諦めよう。
サクセルの茎を2本、セワカラ草を2本、毒草も錬金術で合成してみたいのでギャラドルフの花を一つ。
手に取った商品をカウンターへ並べた。
この世界では各通貨毎に5枚でワンランク上の通貨になるようだ。先程プチプチの素材買い取りでやり取りしたので間違いないだろう。
という事は合計銅貨2枚、小銅貨4枚、鉄貨8枚だから繰り上がり小銅貨1枚と鉄貨3枚で……なれるまで時間がかかりそうだ。
小銅貨も繰り上がるから……銅貨が3枚と鉄貨3枚か。
「銅貨3枚、鉄貨3枚」
と、答えが出たところで店主の渋い声が響いた。
アイテムバッグ(極小)を手に持ってお金を取り出すふりをしてアイテム欄から銅貨3枚と鉄貨3枚を取り出す。
お金をカウンターに置いて、さっさとアイテムを拾って外へ向かう。
「それを何に使うつもりだ?」
突然話しかけられてびっくりして足を止めた。
ここには今客はいない。
ということは、店主が俺に話しかけてきている以外の可能性はない。
声で誰が喋っているのかはわかったが。
「理由を話さなきゃ売れないのか、この店は」
なぜ、俺の口は高圧的になってしまうのだろうか。
いやロールプレイでそう決めたからだ。弱々しい態度で下手に悪者を寄せつけてしまうのも煩わしいから、そうすると決めたのだ。
しかし、ここまで高圧的だと逆にトラブルの種を撒き散らしそうだ。もう少しどうにかするように心がけよう。
だが、今回は店主が悪い! 入った直後から敵意をぶつけてくるのだ!
少し高圧的になるのも仕方がないだろう。
「売らないわけではない。少し興味が湧いただけだよ。お前さん、貴族だろ? 使用人を使わず自分で買うなんざよっぽどのことなのかと思っただけだよ。気を悪くしたなら謝ろう」
何が気を悪くしたなら謝ろうだ。気を悪くさせてやろうという魂胆がありありと見える。
だが、トラブルはできるだけ回避するのだ。 金はないし時間もない。
「謝る必要はない。俺は貴族ではないからな。理由か。そうだな、理由……フッ、色々さ」
含みを持たせてやった。これで気になって夜も眠れないだろう。ハッハッハー! ざまぁみろ!
それに嘘は言ってない。買う理由の直接的なものは錬金術材料としてだが、もとを正していけば錬金術ギルドに入るためでもあり、錬金術ギルドで依頼を受けてお金を儲けるためとも言えるし、ひいては入門料をまだ払ってないからその金を払うためでもある。色々なのだ。
これ以上は時間の無駄だと言わんばかりに店を出る。本当に時間の無駄だし。
早速錬金術の時間だ!
しかし集中できる場所が欲しい。外でやってもいいのだが、俺の使う錬金術がどういうものでどうなるのかわからない内は一人で確認すべきだ。
一度ギルドに戻って調合できる部屋が無いか聞いてみるか。
マップを開いて迷うことなく足早でギルドに戻った俺はさっそくさっき面倒そうにしていた角の人に声をかけた。
ギルドはやっぱり人が少ない。エルフ耳の男はいるがフードの人はいなくなっている。
「早かったですね。錬金術で作成したアイテムはどれです?」
「いや、これから作る」
「は?」
「部屋を、できれば個室がいいんだが貸してはくれないだろうか」
「ギルドの人間でない者には何もお貸しできません」
そりゃそうか。なんでか錬金術ギルドに所属する人間になった気でいた。なんで何の関係もない奴に部屋を一つ貸さなくてはいけないって話だよな。ごめんごめん。間違えた。
他に部屋を貸してくれそうな所もないし知り合いもいない。
外でやってみるしかないか。いやまてよ、まだ方法があるかもしれない。
「ならば、どこか部屋を貸してくれるところを知らないか?」
「はぁ……部屋ならば宿屋では?」
おっしゃる通り。俺はもう駄目かもしれない。宿屋以外にどこがあるんだよってな。
だが今更何か言っても恥ずかしいので礼を言って去ろう。
「そうか、助かった。ではもう少し待ってくれ」
「失礼、少し構わないか?」
「ヤトサラルさん」
後ろから声がかかった。後ろにいたのはエルフ耳の男だな。
ヤトサラルさんらしい。
「なんだ」
「少し話が聞こえてね。良ければ僕が調合室を用意しよう」
「本当か、それは助かる」
何を考えてるか知らないが都合よく現れたな。だが、貸してくれると言うのなら貸してもらおう。
「代わりと言ってはなんだが、君が調合するところを見せてもらうことはできるかい?」
「それはダメだ。他をあたろう」
即答。ダメに決まってる。まだ自分でも見たことがないのだ。
それに宿屋で十分だ。多分いい人なんだろうが、俺の錬金術は人に見せていいものでは無い気がする。
時間が惜しい。びっくりしたように固まり何も言わなくなったヤトサラルさんを放ってギルドを後にする。
都合よく現れた人を直ぐに信用しない。ここは自分が住んでいた場所とは違うのだ。警戒しているぐらいで丁度いい。
さあ宿屋だ。せっかくだから道を教えてもらった親切な宿屋で一泊しよう。クソ高いけど貸りがあるからな。
どっちみち宿は必要だから今、宿を準備するのもいいだろう。